ランナーズ・ジャーナル JAPAN (Runners-Journal.Jp)

事実に基づいた「真実のコラム」を掲載しています。今だからこそ伝えたい「本当のこと」をありのまま伝えたいと思います。

カテゴリ: レース解説

もう少し陸上競技がどういうものかを勉強して欲しいと感じるNHKの陸上中継。

兎に角、一番残念なのは情報収集力が低いので選手情報が乏しいこと。

少ない情報の中から「誰でも知っていること」を述べているだけに見える。

中高生のレースでも見どころは沢山ある。

小さな体でもセンス抜群の走りをする選手もいる。

細身ではあるがスラリと伸びた足を上手に使える選手もいる。

粗削りな走りだが気持ちの強さが走り方に現れている選手もいる。

脚力が足りずにスピードは出ないが走り方が綺麗で目を引く選手もいる。

今は下位を走っていても心肺機能が発達したらトップレベルになる選手もいる。

ある程度の情報収集力と走り方の知識があれば、魅力溢れる選手の見極めはできる。

レースには流れがあり、流れに乗って走っている選手が結果的に上位でゴールをする。

語るべきは選手の個性であり、解説すべきはレースの流れとレース巧者の見極め。

「この選手のこういう所がこんな風にいいから、このスピードが維持できる」

「この選手は、まだ成長過程にあるので今はこの走りだが近い将来に大化けする」

「集団の後方で走っているが、実は、このレースの主導権を握っているのはこの選手」

「スピードを切り替える直前に目線や腕振りが変わるから中高生には注目して見て欲しい」

そんな風に”その瞬間の見どころ”を1秒たりとも見逃すことなく楽しめるガイド役をする。

そういう実況解説ができれば視聴者は、より一層テレビ中継を楽しめるだろう。

語るべきことを語り、解説するべきことを紹介したら、あとは黙っている。

勝負所は選手の息遣いや足音、スタンドの騒めきなどを聞いて楽しむ。

大袈裟に盛り上げない実況。感動の押し付けをしない解説。

そういう中継ができれば陸上競技の面白さが伝わる。

<レースの見どころを解説する際に見るべきポイント>
 ・スタート後の位置取りに成功した選手は誰か
 ・流れに身を任せて楽をして走っている選手は誰か
 ・逆に勝負を意識し過ぎて動きに余裕がない選手は誰か
 ・集団の前方にいても動きが硬く目一杯走っている選手は誰か
 ・集団の後方にいても動きが柔らかく余力を残している選手は誰か
 ・優勝しなくても猛烈なラストスパートで上位に食い込んだ選手は誰か
 ・予選・準決勝の走りとは別人のように決勝での走りが素晴らしかったのは誰か

注目選手だけでなく出走する全選手の走りの特徴を事前に良く調べること。

それを調べた上でこの大会にピタッと調子を合わせてきた選手を見極めること。

自己ベストが良い選手順に情報収集をするのは、解説する際に妥当な方法である。

それにプラスして「走りが綺麗な選手」や「将来性を感じる選手」を紹介するなど。

ゲスト解説者の知識と経験を活かした”プロ目線”の解説を交えて紹介するのも面白い。

「走り方が綺麗な選手」「エネルギー効率が良い走り方をする選手」など。

視聴者が学べる情報を発信すれば小中学生も市民ランナーも楽しめる。

「カッコいい走り」「マネしたい走り」は、誰しもが知りたい。

どうすれば綺麗に走れるようになるのか。

トップ選手達の走りは何が違うのか。

そういう情報をレースの序盤から中盤に具体例をあげて解説する。

誰がトップを獲るかではなく、誰がどんな可能性を持っているかを解説する。

堂々と「この選手は将来性がありますね!これからが楽しみな選手です!」と解説する。

将来性があると言われた選手は、その言葉を信じて将来活躍できるように努力する。

言われなかった選手は「自分とあの選手は何が違うのかな?」と真剣に考える。

「あの選手みたいに上手に体を使えるようになりたい」と努力を始める。

ただ闇雲に練習するのではなく目指すべきものが具体的に分かる効果は絶大。

陸上選手は記録を追求するよりも手本となる走り方をマネすることで急成長できる。

「勝つためのレース展開」や「スピードを維持しやすい走り方」を学べば大きく成長する。

「誰が仕掛けた!」や「ここでスパートだ!」と叫ぶプロレス中継風解説は卒業したい。

大声を張り上げる絶叫型解説は面白いが学びの要素がなく一時的な感動で終わる。

NHKの陸上中継には是非、”学び”の要素を多分に含んだ実況中継を期待したい。

かつての全中陸上は複数種目への出場が可能だった。

800mと1500mを兼ねたり、1500mと3000mを兼ねたりすることができた。

しかし、数年前から1種目限定となり、より一層専門種目に集中できるようになった。

さらに言えば、予選と準決勝を着順で勝ち抜いて決勝進出者を決めていた800mは…

予選タイムの良かった順にA決勝とB決勝進出者を決める形式へと変わった。

「勝ち抜き戦」から「トライアル形式」へと変わった意味は大きい。

「レース巧者」や「勝負強さ」ではなく「独走型」の選手が有利になった。

男女の800m決勝では全員がナイキ社製の高反発スパイクを履いていたのも頷ける。

「記録を追求するならナイキのスーパースパイクが必要」という認識は中学生にもある。

中学生が購入するには余りにも高額のスパイクを決勝進出者全員が持っている現実。

中学陸上界も時代の変化と進化によって高速化が急激に進んでいると感じた。

<男子>
1種目限定出場ということもあり、全体的に800m・1500m・3000mにバランスよく選手が散らばり、より一層専門性が感じられるレースが多かった。盛り上がり的に言えば、3000mが面白かった。東北大会で中学記録を出した増子陽太選手と菅野元太選手、関西勢の新妻兄弟と奥野選手など、この世代を引っ張る有力選手の多くが3000mに出場したことで複数人が大会新を出す好レースとなった。これだけ主役が揃えば好レースが繰り広げられるのは必然。「我こそは中学ナンバーワンランナーなり!」と自負する選手が互いに一歩も譲ることなく競り合っての素晴らしいレースを見せてくれた。逆に800mと1500mは有力選手達が勝負に徹するあまりスローペースな展開となり記録的には低調な結果となったのが残念に感じた。そんな中でも開催地である福島県は計画的な強化策が実り、800m・1500m・3000mの3種目にバランスよく選手を出場させて各種目で活躍させていたのが素晴らしいと感じた。

<女子>
女子の場合、800mと1500mの2種目から「得意種目」を選ぶのだが、女子800mで優勝した久保凛選手は「自分に合った種目」であり「現在の自分の力を最大限に発揮できる種目」を選んでの見事な優勝であった。有力選手の多くが1500mを選ぶ中で唯一、800mに出場した選択は正しかったと言える。決勝で2分9秒台を出したことによって立場は一変した。10月に愛媛県で開催されるU16陸上女子1000mの優勝候補へと躍り出たといっても過言ではない。昨年も決勝で2分50秒72を出して5位に入っている。そのレースで優勝した高校生の森千莉選手と同等のスピードがあることを証明したことによって大会記録の更新にも期待がかかる。その一方で1500mは主役が揃わない中でドルーリー選手の独走となった。今回決勝を走ったメンバーでは、4分22秒台の自己記録を持つドルーリー選手に対抗できる選手は見当たらないというのが正直のところだ。”主役が揃わないレース”と称した理由は言うまでもなく実力のある二人の選手が”不在”だからである。一人は岡本彩希選手、もう一人は一兜咲子選手。主役が揃った男子3000m決勝と違い、この二人がいない女子1500m決勝は”本当の日本一”を決めるレースではなくなってしまった。1000m2分48秒12の中学歴代1位記録を持つ岡本彩希選手と今夏は1500m4分10秒台を視野に入れた練習を高校生と一緒に行っていると噂されている一兜咲子選手。この二人が揃ってこそ”本当の中学日本一”を決めるレースだと言える。「自分が戦う場所は”ここ”ではなく数年先の未来にある」と考えて、今は将来を見据えた土台つくりをしていると言われている一兜咲子選手。そして、世代ナンバーワンの実力があると評価の高い岡本彩希選手の今後の動向にも注目していきたい。

ゲスト出演をしていた青山学院大学・原晋監督のコメントが真実を語っていた。

「実業団の本当のトップ選手は、今の時期はマラソンをしている」

「ですから(この大会は)学生にも勝つチャンスがある」

「本当のトップ選手が出ていない」という言葉は真実以外の何物でもない。

その通りである。日本一を決める大会というには寂しさを感じる大会であった。

確かに何人か役者は揃っていた。話題の選手や五輪代表選手が出場していた。

しかし、その多くが世間様には殆ど知られていない知名度が低い選手達。

スーパー高校生の佐藤圭汰選手が実業団選手と走ることが一番の話題。

佐藤圭汰選手は、大人を相手に8位入賞をして話題を独り占めした。

しかし、それ以外は大きなニュースにはならなかった。役者不足は否めない。

ネットでライブ配信されたU20(高校の部)の方が期待の選手が多く盛り上がった。

高校駅伝の強豪校が競い合うU20をテレビ中継した方が視聴率が取れたかもしれない。

年末の都大路を沸かせた駅伝強豪校の選手達が揃った高校の部は見応えがあった。

<U20 男子・8㎞>※TOP10 
  1.23:36 吉岡大翔   (佐久長聖高校・長野)
  2.23:39 南坂柚汰   (倉敷高校・岡山)
  3.23:46 長嶋幸宝   (西脇工業高校・兵庫)
  4.23:49 溜池一太   (洛南高校・京都)
  5.23:53 荒巻朋煕   (大牟田高校・福岡)
  6.23:54 西村真周   (自由ヶ丘高校・福岡)
  7.23:56 山崎 丞   (中越高校・新潟)
  8.24:02 玉目 陸   (出水中央高校・鹿児島)
  9.24:10 新妻玲旺   (西脇工業高校・兵庫)
10.24:14 山口峻平   (佐久長聖高校・長野)

<U20 女子・6㎞>※TOP10 
  1.19:55 水本佳菜   (大阪薫英女学院高校・大阪)
  2.20:03 松本明莉   (筑紫女学園高校・福岡)
  3.20:08 並木美乃   (常盤高校・群馬)
  4.20:09 溝上加菜   (ルーテル学院高校・熊本)
  5.20:10 中才茉子   (筑紫女学園高校・福岡)
  6.20:15 村岡美玖   (長野東高校・長野)
  7.20:18 細谷愛子   (立命館宇治高校・京都)
  8.20:31 西澤茉鈴   (大阪薫英女学院高校・大阪)
  9.20:34 岡本姫渚乃  (白鵬女子高校・神奈川)
10.20:39 白木ひなの  (山田高校・高知)

やはり高校生のレースは清々しく気持ちが良い。

純粋さがあり、潔さがあり、観ていて心がワクワクする。

これからの日本を背負って立つ選手達の成長に期待してしまう。

実業団選手には申し訳ないが高校生に比べて知名度もスター性も見劣りする。

今回出場した実業団選手は、強いのか弱いのかが中途半端な印象が強い。

学生を相手にしてダントツに勝てない弱さは視聴者には伝わる。

「名前を知らないし、イマイチ、パッとしない感じだった」

マラソン・駅伝ファンの方々は、テレビ中継を観て、そんな印象を持ったようだ。

「それよりも、高校生たちが数年後には実業団選手を追い抜いていくのが楽しみ」

そういう楽しさを見つけながら日本長距離界の行く末を見守ってくれるのはありがたい。

はやり「名前を知らない実業団選手」より「有名な高校生」の活躍の方が盛り上がる。

福岡クロカンのテレビ中継の仕方。注目選手の取り上げ方。番組の作り方。

それらを見直すことで多くのファンが見てくれる大会になるだろう。

松田瑞生選手の大会記録更新で盛り上がりを見せた大阪国際女子マラソン。

今回のレースを科学的に見てみると現在の日本女子マラソン界の実力が分かる。

「厚底シューズを履くとフルマラソンの記録が3~4分短縮できる」

「厚底シューズが1㎞で5秒前後速く走れる力を与えてくれる」

そのようなデータがスポーツ科学の専門家によって出されている。

このことから考えると今大会の記録は低調だったと言えるかもしれない。

<第41回大阪国際女子マラソン結果>※TOP8
1.2:20.52 松田瑞生  (ダイハツ)
2.2:22.29 上杉真穂  (スターツ)
3.2:23.05 松下菜摘  (天満屋)
4.2:23.11 谷本観月  (天満屋)
5.2:24.02 阿部有香里 (しまむら)
6.2:24.47 佐藤早也伽 (積水化学)
7.2:25.35 川内理江  (大塚製薬)
8.2:27.14 岩出玲亜  (千葉陸協)

今回の記録から3~4分を足した記録が下記の赤字の記録である。

                 (脚力を推定した記録) 
松田瑞生 (ダイハツ) 2:20.52 → 2:23.52~2:24.52
上杉真穂 (スターツ) 2:22.29 → 2:25.29~2:26.29
松下菜摘 (天満屋)  2:23.05 → 2:26.05~2:27.05
谷本観月 (天満屋)  2:23.11 → 2:26.11~2:27.11
阿部有香里(しまむら) 2:24.02 → 2:27.02~2:28.02
佐藤早也伽(積水化学) 2:24.47 → 2:27.47~2:28.47
川内理江 (大塚製薬) 2:25.35 → 2:28.35~2:29.35
岩出玲亜 (千葉陸協) 2:27.14 → 2:30.14~2:31.14

シューズの力を多分に借りて走っている現実を冷静に分析することは大事。

選手本来の能力を「上乗せ評価」していては世界との差は一向に縮まらない。

厚底シューズを履くなら確実に2時間22分以内で走れる脚力を練習で養うべき。

厚底シューズに頼らずに脚を鍛えてきたかどうかは、脚の絞れ具合で分かる。

走り込みをして強い脚力を養ってきたかどうかは足の返しの速度で分かる。

「マラソンは誤魔化しが効かない競技である」

「どの程度走り込んできたかは一目瞭然だ」

かつて世界に通じるマラソン選手を育ててきた”ある”指導者は言っていた。

日本人選手、特に女子選手は体を絞り「軽さ」を追求してマラソンを走ってきた。

体を絞れるかどうかがマラソンに必要な「我慢や忍耐力」を養うことに繋がっていた。

厚底シューズが誕生してからは体を絞らなくても「重さ」を利用して走れるようになった。

体の「重さ」を利用して反発力を生み出すので足の返しのコツを掴めばバテなくなった。

しかし、それは日本人以上に走り込んでいる上に高い身体能力を持つアフリカ勢の話。

「シューズの性能が日本人選手の強みである我慢と忍耐力を失わせている」

「自分の能力を最大限に引き出すのはシューズではなく地道なトレーニング」

「それを強く理解してトレーニングしなければ絞らなくても走れると勘違いする」

かつて日本代表選手として世界の舞台で戦ってきた”ある”選手は、そう感想を述べた。

そして、優勝した松田瑞生選手の走りについても、このように分析してくれた。

「松田選手は、誰よりも体が絞れていたし脚にも力があった」

「2時間10分台の記録が出せるくらいに練習も積んできている」

「松田選手が2時間10分台を出せなかった理由は、ふたつ、ある」

「ひとつ目は、前半の走り方。一人だけ”せわしない動き”だった」

「もっと余裕を持って、ゆったりと走れば、全然力を使わずに済む」

「前半から一生懸命に走り過ぎて力の無駄遣いをしているように見えた」

「松田選手を指導する山中監督も、ゆったり走りなさい!と声を掛けていた」

「ペースメーカーが余裕を持って走っている分、松田選手の走りが忙しく見えた」

「ふたつ目は、ペースメーカーが上手に引っ張り過ぎて楽をしてしまったこと」

「ハッキリ言って、ペースメーカーに頼らずに走った方が記録は良かった」

「実力がある選手の場合、独走状態の一人で走ることで力が覚醒する」

「ぶっちぎりの独走をした方が”ランナーズハイ”になって快走する」

「一人で走っていたら、2時間20分切りは達成できていたと思う」

元日本代表選手だった人物は、松田選手の走りについて冷静にレース分析をしてくれた。

前半の動きに余裕を持って脚を使わずに後半まで余力を残す。

後半は自分一人で走ることでゾーンに入り潜在能力を引き出せる。

指導している山中監督が、このふたつを理解していることを期待したい。

そして、松田選手が日本人で4人目の2時間10分台ランナーになることを期待したい。

厚底シューズが選手に対して大きな助力を与えていると考えられているが…

果たして本当に全ての選手に対して平等にプラスαの力を与えているのだろうか。

一部のトップ選手によって区間新記録が出ているが全体の記録はどうなのだろうか。

青山学院の選手やトップレベルの選手だけが厚底の恩恵を受けられているのはおかしい。

厚底シューズを履くことで記録が短縮出来るなら1位との差は縮まっても不思議ではない。

上位を走る選手だけが快走をして後ろを走る選手には厚底シューズは役に立たない。

先頭を走り「気持ち良く走れた」から効果がある。後ろを走る選手は失速する。

それでは技術革新とは呼べない。結局は心の問題。精神論になってしまう。

「1位でも20位でも20㎞以上の距離を走る選手にプラスαの力を与える」

「どんなに疲れていても反発力のある厚底の効果で失速しない」

「履けば絶対に快走するシューズ。失敗しないシューズ」

そんな魔法のシューズではないことは過去の記録と比較して見れば分かる。

過去5年間の往路・復路。総合記録を参考にして1位と20位との差を比較してみたい。

過去5年間の1位、10位、20位の記録は下記となる。(赤字は1位との差)

尚、学連選抜チームを抜いた順位(記録)で計算をしている。

     <往路> <復路> <総合>
~2022年~ 
  1位   5:22:06    5:21:36   10:43:42
10位   5:29:14    5:30:24   10:58:46
       (  7:12)      (  8:48)    (15:04)
20位   5:41:11    5:39:39   11:15:09
       (19:12)      (18:03)    (31:27)

~2021年~
  1位   5:28:08    5:25:33   10:56:04
10位   5:35:01    5:31:09   11:05:49
       (  6:53)      (  5:36)    (  9:45)
20位   5:49:56    5:38:58   11:28:26
       (21:48)      (13:25)    (32:22)

~2020年~
  1位   5:21:16    5:23:47   10:45:23
10位   5:29:08    5:31:31   10:59:11
       (  7:52)      (  7:44)    (13:48)
20位   5:38:37    5:38:20   11:16:13
       (17:21)      (14:33)    (30:51)

~2019年~
  1位   5:26:31    5:23:49   10:52:09
10位   5:33:32    5:35:51   11:09:23
       (  7:01)      (12:02)    (17:14)
20位   5:42:26    5:41:03   11:19:57
       (15:55)      (17:14)    (27:48)

~2018年~
  1位   5:28:29    5:28:34   10:57:39
10位   5:34:18    5:39:12   11:14:25
       (  5:49)      (10:38)    (16:46)
20位   5:42:22    5:50:20   11:32:42
       (13:53)      (21:46)    (35:03)

~2017年~
  1位   5:33:45    5:30:25   11:04:10
10位   5:38:16    5:38:16   11:17:00
       (  4:31)      (  7:51)    (12:50)
20位   5:54:57    5:54:21   11:49:18
       (21:12)      (23:56)    (45:08)
※この年は総合20位国士舘大学が例年以上にダントツに遅かった。
※19位の総合記録は11:30:38と比較すると差は26:28となる。

<往路の1位と20位との差が少ない年のランキング>
1位 2018年(13分53秒)
2位 2019年(15分55秒)
3位 2020年(17分21秒)
4位 2022年(19分22秒)
5位 2017年(21分12秒)
6位 2021年(21分48秒)

<復路の1位と20位との差が少ない年のランキング>
1位 2021年(13分25秒)
2位 2020年(14分33秒)
3位 2019年(17分14秒)
4位 2022年(18分03秒)
5位 2018年(21分46秒)
6位 2017年(23分56秒)

<総合の1位と20位との差が少ない年のランキング>
1位 2019年(27分48秒)
2位 2020年(30分51秒)
3位 2022年(31分27秒)
4位 2021年(32分22秒)
5位 2018年(35分03秒)
6位 2017年(45分08秒)※例外的に遅い年であった

この記録を見る限り、この3年間で1位との差が極端に縮まった訳ではないことが分かる。

「上位を走るチームには力のある有望な選手が入ってくるのだから差は開いて当然」

「1位との差はスカウト力の差であるから厚底シューズを履いても差は縮まらない」

「厚底シューズとの相性などもあり選手個人の資質の差はシューズでは埋まらない」

それでも薄底シューズの価格を遥かに上回る「とても高価なシューズ」である。

力の差を埋めてくれるスーパーシューズであって欲しい。

プラスαの力を与えてくれるミラクルシューズであって欲しい。

すべての選手がレベルアップすることで大会運営時間が大幅に短縮できる。

箱根駅伝のゴール記録が全体的に30分短縮できたら大会運営費は大幅にカットできる。

一部の選手が区間新記録を出すよりも全チームの総合記録が大幅に短縮できることが大事。

厚底シューズを履く効果として「大会自体」を革新的に変えてくれることを期待したい。

つけ入る隙があったのにもかかわらずライバル校の自滅により青山学院大学が圧勝した。

原監督の選手采配を称賛する声もあるが実際には極めて妥当な区間配置をしている。

駅伝の鉄則であり、勝利する為に最も大事なのは、「冒険をしない」こと。

「イチかバチかの賭け」に出ないというのは勝利する為の必須条件。

不安定要素を出来る限り少なくすることが駅伝必勝法である。

青学と優勝争いをすると予想されていた駒澤大学が予想外の失速をした理由。

それは駅伝の鉄則を破り「イチかバチかの賭け」に出たことである。

20㎞を全力疾走する準備が出来ていない選手を使ったから。

明らかに本調子ではない選手をぶっつけ本番で使う。

そんなことはリスク管理上あり得ないことだ。

結果的に大きなブレーキとなっただけではなく怪我を再発させてしまった。

エース級の選手がブレーキをするのはチームにとって大きな痛手となる。

しかし、それ以上に選手本人にとって大きな心の傷となってしまう。

人生を左右する大舞台で本調子ではない選手を使うべきではない。

東洋大学がスーパールーキー石田洸介選手を使わなかったのは賢明な判断。

エース級選手を使わない勇気と覚悟も学生の夢と未来を預かる指導者には必要。

そう言う点では青山学院大学の原監督のリスク管理能力は素晴らしいと言えるだろう。

不破聖衣来選手の逆転劇に注目が集まった東日本女子駅伝。

果たして本当に不破選手は実力を最大限に発揮できたのか?

「将来、五輪選手になるかもしれない」

そう思わせる走りをした選手は他にいなかったのだろうか?

走りを見て「この選手は強い!」と思わせてくれた選手が2名いる。

ひとり目は、1区で区間新記録をマークした岡本春美選手(ヤマダホールディングス)。

ゲスト出演をしていた福士加代子選手が「ひとりだけ走りが違う」と評価する逸材。

常盤高校時代から期待されていた選手だが卒業後に加入したチームでは力を発揮できず。

しかし、チームを移籍して群馬に戻ってからは、本来の走りが戻り潜在能力が開花した。

今回の走りを見る限り現時点でパリ五輪代表に最も近い選手だと言っても良いだろう。

走りのセンスは日本記録保持者の田中希実選手を上回るポテンシャルを持っている。

将来3000mと5000mで日本記録を更新する可能性を秘めた期待のランナーだ。

もうひとりは、やはり、知名度&実力を兼ね備えた米澤奈々香選手(仙台育英高校3年)。

東日本女子駅伝で最も難易度の高いコースを高校生の米澤選手が見事に走り切った。

惜しくも区間記録の更新はならなかったが16分09秒という記録への評価は高い。

5区の区間記録(16分02秒)保持者は、杉原加代(当時:パナソニック)。

<杉原加代選手の主な実績>

2003年 日本選手権    1500m優勝
2005年 日本選手権    5000m2位
2006年 アジア大会    5000m銀メダル
2007年 日本選手権    5000m2位
2007年 世界陸上大阪大会 5000m日本代表
2011年 日本選手権    10000m優勝
2011年 世界陸上大邱大会 5000m&10000m日本代表

杉原選手は上記のような素晴らしい実績のある「世界と戦える選手」であった。

世界レベルの選手が持つ区間記録に米澤奈々香選手は「あと数秒」に迫った。

米澤奈々香選手の走りが「世界」に近いものであることは間違いない。

東日本女子駅伝から世界へ飛び立つ可能性を秘めた二人の選手。

新時代のエース的存在となるであろう二人の未来は明るい。

岡本選手と米澤選手の今後の活躍から目が離せない。


各区間の記録を1㎞平均と難易度で分析した潜在能力判定結果を紹介する。

各区間の区間賞と1㎞平均のペースは下記となる。

1区 6㎞     18分44秒 1㎞平均:3分08秒33 岡本春美 (群馬)
2区 4㎞     12分57秒 1㎞平均:3分14秒25 保坂晴子 (東京)
3区 3㎞       9分59秒 1㎞平均:3分19秒66 名和夏乃子(長野)
4区 3㎞       9分27秒 1㎞平均:3分09秒00 今西紗世 (千葉)
5区 5.0875㎞ 16分09秒 1㎞平均:3分10秒46 米澤奈々香(宮城)
6区 4.1075㎞ 13分23秒 1㎞平均:3分15秒49 伊藤南美 (神奈川)
7区 4㎞     13分17秒 1㎞平均:3分09秒25 佐藤悠花 (長野)
8区 3㎞    9分27秒 1㎞平均:3分09秒00 小泉咲菜 (群馬)
9区 10㎞   31分29秒 1㎞平均:3分08秒90 不破聖衣来(群馬)


1㎞平均の速い順に並べ替えると下記となる。

1位 3分08秒33 岡本春美 (群馬)
2位 3分08秒90 不破聖衣来(群馬)
3位 3分09秒00 今西紗世 (千葉)
3位 3分09秒00 小泉咲菜 (群馬)
5位 3分09秒25 佐藤悠花 (長野)
6位 3分10秒46 米澤奈々香(宮城)
7位 3分14秒25 保坂晴子 (東京)
8位 3分15秒49 伊藤南美 (神奈川)
9位 3分19秒66 名和夏乃子(長野)


各区間の難易度を考慮した走力&攻略度ランキングは下記となる。

1位 5区・3分10秒46 米澤奈々香(宮城) ※起伏が激しい
2位 1区・3分08秒33 岡本春美 (群馬) ※上り
3位 2区・3分14秒25 保坂晴子 (東京) ※急な上り
4位 3区・3分19秒66 名和夏乃子(長野) ※急な上り
5位 7区・3分09秒25 佐藤悠花 (長野) ※上り
6位 6区・3分15秒49 伊藤南美 (神奈川)※下り
7位 4区・3分09秒00 今西紗世 (千葉) ※下り
8位 9区・3分08秒90 不破聖衣来(群馬) ※急な下り
9位 8区・3分09秒00 小泉咲菜 (群馬) ※急な下り


いずれの選手も区間賞を獲得する素晴らしい選手達である。

どの選手にも将来性があり日本代表選手として活躍できる可能性がある。

近い将来、世界へ向かって羽ばたくであろう逸材が揃った今回の東日本女子駅伝。

今後も「未来の日本代表選手が育つ場」として東日本女子駅伝を楽しんで欲しい。

<女子1500m準決勝1組>
  1.3:56.80 フェイス・キピエゴン       (ケニア)    Q
  2.3:57.54 フレウェイニ・ゲブレジベヘル   (エチュオピア) Q
  3.3:58.28 カブリエラ・デビュースタフォード (カナダ)    Q SB
  4.3:58.81 ジェシカ・ハル          (オーストラリア)Q AR
  5.3:59.19 田中希実             (日本)     Q NR
  6.4:01.00 エリノア・プリアーセントピエール (アメリカ)   q
  7.4:01.23 クリスティーナ・マキ       (チェコ)    q NR
  8.4:02.25 ガイア・サバティーニ       (イタリア)     PB
  9.4:02.93 ケイティ・スノーデン       (イギリス)
10.4:06.01 マルティナ・ガラント       (ポーランド)
11.4:10.39 コリーアン・マギー        (アメリカ)
12.4:10.93 カテリナ・グランツ        (ドイツ)
13.4:11.62 ウィニー・チェベト        (ケニア)

<女子1500m準決勝2組>
  1.4:00.23 シファン・ハッサン        (オランダ)   Q
  2.4:00.73 ローラ・ミューア         (イギリス)   Q
  3.4:01.37 リンデン・ホール         (オーストラリア)Q
  4.4:01.64 ウィニー・ナニョンド       (ウガンダ)   Q
  5.4:01.69 マルタ・ペレス          (スペイン)   Q PB
  6.4:02.12 ルシア・スタッフォード      (カナダ)      PB
  7.4:02.35 サラ・クイビスト         (フィンランド)   NR
  8.4:03.70 ディアナ・メズリアーニーコバー  (チェコ)      PB
  9.4:03.76 レムレム・ハイル         (エチオピア)
10.4:04.15 マルタ・ペンフレイタス      (ポルトガル)    SB
11.4:04.86 エリス・ファンデルエルスト    (ドイツ)
12.4:05.33 ヘザー・マクレーン        (アメリカ)
13.4:05.56 エディナ・ジェピトク       (ケニア)

<解説>
女子1500m準決勝1組で5着に入り決勝進出を果たした田中希実選手。記録は日本人選手として初めて4分を切る3分59秒19。東京五輪という大舞台で田中希実選手が成し遂げたことは日本女子長距離界の歴史を変える出来事となった。今まで誰も達成したことのない4分切り。そして、1500mという日本が最も世界から遅れをとっている種目での決勝進出。これまでの日本人選手が持っていた「世界の壁」という先入観を打ち破る素晴らしい走りだった。

今回、田中希実選手が決勝進出を果たした背景には、彼女の背中を押す幾つかの出来事があったのを理解している陸上関係者は少ない。どんな背景があり「日本人初の4分切り」と「決勝進出」が達成できたのかを解説したい。

ひとつ目は、三浦龍司選手の決勝進出と日本記録更新。世界のトップ選手の中では小柄な三浦選手がアフリカ勢を相手に堂々と先頭を走る姿は日本の長距離選手達に勇気を与えた。「自分達にも出来る!」というチャレンジ精神を脳にインプットさせた。三浦選手が当たり前のように決勝進出を果たし日本記録を塗り替えていく姿を見て衝撃を受けた選手は少なくない。三浦龍司選手の走りが日本長距離チームに大きな刺激を与えたと言って良いだろう。

二つ目は、卜部蘭選手の大幅な自己記録を更新。ついに4分10秒を切って前日本記録保持者だった小林祐梨子さんの記録に並ぶ4分07秒台を出した。この衝撃も大きかった。4分05秒→4分04秒→4分02秒と日本記録を更新していく田中希実選手のすぐ後ろに卜部選手が迫ってきたのを肌で感じたからこそ田中選手の日本人初4分切りと決勝進出に繋がったと言える。

三つ目は、5000mで予選敗退をしたこと。想像もしていなかった予選敗退という現実を受け止めて、その悔しさを1500mにぶつけることが出来たから「これまでにない気迫のこもった走り」が出来たと言える。これまでのどんなレースよりも覚悟を決めた走りだった。これまでのどんなレースよりも隙のない甘えのない走りだった。予選敗退という受け入れ難い現実を素直に受け止めたからこそのワンランク上のモードに入ったのだろう。これ以上ない闘志に満ちた走りは、まるで「全中陸上でガムシャラに走る中学生」のような新鮮で生き生きとした走りだった。不安な様子など微塵も感じない堂々とした走りだった。

これまで彼女が見せてきた走りとは、まるで違う「別次元」の走りが出来た背景には、このような要因があったのは間違いない。田中希実選手が自覚しているかどうかに関係なく深層心理に影響を及ぼす出来事があったことで田中選手の走りが変わり歴史的な快挙へと繋がった。東京五輪という夢舞台で背中を押してくれるプラス要因に恵まれたのも実力と言える。

田中希実選手が日本人初の3分台を出し決勝進出を果たしたことで日本人の意識は大きく変わる。陸連関係者や実業団関係者は自分達の想像を超えた出来事に大喜びだが「自分達はもっと上を目指せる!」「世界の舞台で田中希実選手を上回る活躍をしたい!」と冷静に未来を見据えている「次世代の陸上界を担うジュニア選手」がいることを忘れてはならない。「凄い!凄い!」と大喜びしたり、決勝進出を果たしただけで大興奮している陸連関係者は、もっと冷静になるべき。田中選手が開けた扉を更に大きく開き、”その先”にある世界へ向かって日々の努力を積み重ねているジュニア選手がいることを陸連関係者は知っておくべきだろう。少なくとも田中希実選手を超える可能性があるジュニア選手は7人いる。その選手達の情報を集めて、今から2024年パリ五輪と2028年ロス五輪へ向けての準備を進める意気込みと覚悟を持って欲しい。行き当たりばったりのギャンブルのような取り組みでは田中希実選手が開いた扉を自らが閉じてしまう結果になる。今だからこそ、4分切りの”その先”に到達する為の取り組みをスタートさせるチャンスだと信じてジュニア選手の育成に全精力を注いで欲しい。日本人選手が1500mでメダリストになる日は、近い将来必ず訪れる。そう信じて5年・10年先を見据えた取り組みを今からスタートさせてくれることを期待したい。

<女子1部10000m決勝結果>
  1.34:08.73 岡島 楓   (日体大4・北海道)
  2.34:09.86 松本奈々   (順大4・大阪)
  3.34:09.91 山賀瑞穂   (大東大3・埼玉)
  4.34:11.89 今井彩月   (大東大3・埼玉)    PB
  5.34:19.04 小原茉莉   (日体大2・長野)
  6.34:19.69 渡辺光美   (城西大3・千葉)    PB
  7.34:20.84 黒田 澪   (日体大3・熊本)
  8.35:06.41 風間歩佳   (中大2・千葉)
  9.35:17.34 浅田遥香   (東農大3・愛知)    PB
10.35:31.58 立迫望美   (東洋大2・鹿児島)
11.35:34.23 髙橋香澄   (筑波大4・福島)
12.35:39.62 髙野美穂   (中大1・長野)
13.35:52.64 金井美凪海  (亜大2・東京)
14.36:00.03 座間 栞   (順大4・千葉)
15.36:00.25 大澤由菜   (東農大4・千葉)
16.36:16.89 金田理花   (帝科大3・埼玉)    PB
17.36:53.85 御廐敷志乃  (帝科大4・東京)

<レース解説>
中学・高校時代に数々の実績を持つ選手が集まったレースとしては、ハッキリ言って記録は物足りない。どんなに悪天候でも32分30秒以内で走ることが当たり前にならなくては日本の学生長距離界の発展は期待出来ない。しかしながら、大学対抗戦であるが故に順位を優先するのも当然のことだと言える。点数を稼ぐのが選手の役目であるから「勝負に徹した走り」になるのも理解できる。スローペースながらも「この選手の走りは素晴らしい」と感じる選手がいた。今後の育て方次第では大化けする可能性がある選手。「将来性はピカイチ」だと感じる選手が何名か目についたので紹介したい。

レース中盤以降、7人の集団でレースが進んでいく。そこにいる7人の選手全員に将来の可能性を感じた。その7人とは、日体大4年の岡島楓選手、順天堂大4年の松本奈々選手、山賀瑞穂選手と今井彩月選手の大東大3年コンビ、日体大2年の小原茉美選手、城西大3年の渡辺光美選手、そして日体大3年の黒田澪選手。この7人は、大学卒業後の進路次第で日本代表選手になる可能性を秘めている。その為には、自分の可能性を引き出してくれて、日本のトップレベルへと引き上げてくれる指導者との出会いが欠かせない。入る実業団チームを間違えなければ、まず間違いなく大化けする選手達である。

7人それぞれに個性があり、走りの特徴を活かした伸びしろがある。順天堂4年の松本選手は、走りのセンスが抜群。足のさばきが上手く走り全体が綺麗にまとまっている。ワコールの一山選手のようなイメージで「綺麗なフォームを崩さずに走る脚力強化」をしてくれるチームと出逢えたら数年以内に日本を代表する選手へと一気に駆け上る可能性がある。上半身の使い方が上手く動きに無駄がないのは大東大の山賀選手。ラスト勝負で負けはしたが出場選手の中で一番走りが安定していた。天満屋の選手達のようにコツコツと走り込んで体力を養い脚力を鍛えていけば将来マラソンで開花する可能性を感じる。同じ大東大の今井選手も日頃から練習を積んでいるのが分かる安定した走りをしていた。7人の中で最も気持ち負けしない強さを感じたのは城西大の渡辺選手。小柄ながら軽軽なピッチで粘り強く集団に食らいつく姿は観ている者の心を掴む。こういう選手を数年かけて大切に育ててくれるチームは幾つかある。即戦力を必要としているチームではなく長い目で育ててくれるチームと出逢うことが出来たら大化けする可能性が十分にある。日体大の岡島選手は、実業団選手になってから時間とお金を掛けて環境の良い場所でトレーニングをしたら、すぐに31分30秒で走るような可能性に溢れている。まだまだスタミナがなく、現時点では速いレースペースについていくことが出来ないかもしれないが、ラストであれだけのスピードの切り替えが出来るのは将来的にも大きな武器になる。日体大の他の2人も「本来の力はもっと高い」と感じる走りだった。指導者との巡り合わせと出逢いがあれば、将来の可能性に満ち溢れている選手だと言える。ゴールタイム以上に「逸材」を発見するのに役立った女子10000mであった。

<女子1500m結果>
  1.4:09.10 田中希実   (豊田自動織機TC)
  2.4:12.38 卜部 蘭   (積水化学)
  3.4:13.44 後藤 夢   (豊田自動織機TC)
  4.4:13.82 樫原沙紀   (筑波大)        PB
  5.4:14.35 マーガレット アキドル  (コモディイイダ)    PB
  6.4:15.35 シンシア バイレ    (日立製作所)
  7.4:17.96 米沢奈々香  (仙台育英高)
  8.4:18.02 飯野摩耶   (埼玉医科大学G)
  9.4:19.55 菊地梨紅   (肥後銀行)       PB
10.4:21.10 田崎優理   (ヤマダホールディング)


 〜全中チャンピオン〜
 飯野摩耶   2002年 第29回大会 4分28秒21(白根巨摩中・山梨)
 田中希実   2014年 第41回大会 4分22秒21(小野南中・兵庫)
 樫原沙紀   2016年 第43回大会 4分27秒89(呉昭和中・広島)
 米沢奈々香  2018年 第45回大会 4分27秒42(浜松北浜中・静岡)

 〜公式記録〜
   400m 1:07.19     ※100m平均 16.7975秒
   800m 2:14.32 (1:07.13) ※100m平均 16.7825秒
 1200m 3:20.85 (1:06.53) ※100m平均 16.6325秒
 1500m 4:09.10 (   48.25) ※100m平均 16.0833秒

 〜手元計測〜
   100m 16.08
   200m 17.23 (33.31)
   300m 16.88 (50.19)
   400m 16.90 (1:07.09)
   500m 16.75 (1:23.84) ①1:23.84
   600m 16.57 (1:40.41)
   700m 17.22 (1:57.63)
   800m 16.78 (2:14.41)
   900m 16.45 (2:30.86)
 1000m 17.22 (2:48.08) ②1:24.24
 1100m 16.78 (3:04.86)
 1200m 15.74 (3:20.60)
 1300m 15.43 (3:36.03)
 1400m 16:24 (3:52.27)
 1500m 16:71 (4:08.98) ③1:20.90
 ※赤文字は500m毎のラップ



<解説>
五輪参加標準4分04秒20を突破するのに必要なペースは、500mを1分21秒40ペース。単純に考えれば、これを3回繰り返せば五輪標準記録に近づく。五輪標準を突破するには1000mの通過を2分42秒~43秒で楽に通過していくことが求められる。田中希実選手の1000mは2分48秒。本気で五輪標準記録突破を目指すなら、当たり前のように2分43秒以内で通過する感覚を持ちたい。踏み込んで言わせて頂くと、田中希実選手は、もっと1000mの通過にこだわる必要がある。いくらラスト400mのスピードに自信があると言っても、それは日本国内レースでの話。今のままでは世界の舞台では全く通用しない。今回もラスト500mを1分20秒~21秒に上げているが100m毎のラップはラスト200m、100mともにペースダウンしている。世界レベルの選手ならラスト200mを28秒~29秒で切り返す。残念ながら田中希実選手には、まだ、その力はないと言える。

田中希実選手のスピードについては、国内では通用すると言ったが実際には国内でも通用しないことが静岡国際陸上の800mで分かったはずだ。あのレースも例によって1周目を後方からスタートして徐々にビルドアップしていった。田中希実選手のイメージとしてはラスト200mから先頭を走る北村夢選手を射程圏内に入れてロックオンする。そして、コーナーをあけて直線に入った段階で横に並びかけてラスト50mあたりから相手が失速するのを利用して先頭に出るという感じのイメージをしていたと思われる。しかし、800mの第一人者である北村夢選手のラストは、これまでに戦ってきた選手とはスピード持続力が違っていた。北村夢選手のラストの強さを初めて体感して驚いているようにも見えた。やはり、北村夢選手は強かった。田中希実選手にしてみれば当たり前のように追い抜き先頭でゴールするというイメージが崩れてしまった。その途端に田中希実選手の動きが硬くなったのがレース動画からも見てとれる。もしも、静岡国際の800mを走っていなかったら、ラスト100mで思うようにスピードが上がらずに北村夢選手を追い抜けない経験をしていなかったら、今回のラスト100mはもっと軽やかに加速できていただろう。いつもいつも勝とうとしてはいけない。

800mで自己新を出せたことをスピード強化目的として評価する声もあるが、それは違う。トップ選手は記録の良し悪しで自分の調子を確認したりなどしない。それは経験の浅い中学生のような選手がすること。日本のトップ選手達は「記録」ではなく「動き」の良し悪しで調子を判断する。今の田中希実選手のままではラスト100mで失速する感覚を持ったままになってしまう。1500mで更なる記録更新を望むならラストで力まずに加速する良いイメージを再構築する必要がある。それには、男子中学生をトレーニングパートナーにしてスピード維持力を磨くことが必要。女子選手が800mと1500mで日本記録を更新するには男子中学生と一緒に練習すれば数ヶ月から半年、長くて一年で大幅な記録更新ができるだろう。男子中学生のひたむきに練習する真面目さと毎回真剣勝負する姿勢が日本の女子選手を強くする。男子中学生とガチ勝負して1分59秒を出す練習。男子選手のようなスピードのキレを間近で感じながら1500m4分02~03秒を出す為に必要な「ラスト400mと200mからのビルドアップ感覚」を養うことが日本の女子中距離選手に最も効果的なトレーニングとなる。

田中希実選手、卜部蘭選手、樫原沙紀選手、米澤奈々香選手は、男子中学生と一緒に走ってもスピードで見劣りしない走りの感覚を身に付けられたら、近い将来、1500mでの4分05秒以内は見えてくる。間違いなく世界レベルに追いつける。そういう発想を持って日本の女子中距離選手のトレーニングを組み立てられるコーチングスタッフを置けるかどうかも世界で通じる選手へと成長するためのカギとなる。

1㎞の平均ペースを見れば、誰がどんな走りをしていたかが分かる。

1㎞の平均ペースを見れば、選手それぞれの実力が可視化できる。

<シニア男子10㎞結果>※TOP8
  <記録>              <1㎞平均>
  1.29:10 三浦龍二          2分55秒00
     (順天堂大学)
  2.29:10 松枝博輝          2分55秒00
     (富士通)
  3.29:16 今井篤弥          2分55秒56
     (トヨタ自動車九州)
  4.29:17 田村和希          2分55秒70
     (住友電工)
  5.29:18 鈴木塁人          2分55秒80
     (SGホールディングス)
  6.29:20 田村友佑          2分56秒00
     (黒崎播磨)
  7.29:21 藤本珠輝          2分56秒10
     (日本体育大学)
  8.29:24 川瀬翔矢          2分56秒40
     (皇學館大学)

<U20男子8㎞結果>※TOP8
  1.23:19 佐藤圭汰          2分54秒875
     (洛南高校)
  2.23:47 太田蒼生          2分58秒375
     (大牟田高校)
  3.23:54 南坂柚汰          2分59秒250
     (倉敷高校)
  4.23:59 田中悠登          2分59秒875
     (敦賀気比高校)
  5.24:03 山﨑皓太          3分00秒375
     (洛南高校)
  6.24:04 山本歩夢          3分00秒500
     (自由ヶ丘高校)
  7.24:07 若林宏樹          3分00秒875
     (洛南高校)
  8.24:07 堀田晟礼          3分00秒875
     (千原台高校)

<シニア女子8㎞結果>※TOP8
  1.25:54 萩谷 楓          3分14秒250
     (エディオン)
  2.26:20 酒井美玖          3分17秒500
     (北九州市立高校)
  3.26:21 和田有菜          3分17秒625
     (名城大学)
  4.26:22 田中希実          3分17秒750
     (豊田自動織機TC)
  5.26:35 川口桃佳          3分19秒375
     (豊田自動織機)
  6.26:58 鷲見梓沙          3分22秒250
     (ユニバーサルエンターテインメント)
  7.27:11 山ノ内みなみ        3分23秒875
     (京セラ)
  8.27:16 阿部有香里         3分24秒500
     (しまむら)

<U20女子6㎞結果>※TOP8
  1.19:49 不破聖衣来         3分18秒166
     (健大高崎高校)
  2.20:14 三原 梓          3分22秒333
     (立命館宇治高校)
  3.20:19 小坂井智絵         3分23秒166
     (成田高校)
  4.20:27 小川陽香          3分24秒500
     (順天高校)
  5.20:27 並木美乃          3分24秒500
     (常盤高校)
  6.20:29 永長里緒          3分24秒833
     (筑紫女学園高校)
  7.20:36 野田真理那         3分26秒000
     (北九州市立高校)
  8.20:40 土井葉月          3分26秒666
     (須磨学園高校)


<解説>
男子のベストラップは、なんとU20で優勝した佐藤圭汰選手(洛南)の2分54秒875。シニア10㎞で優勝した三浦龍二選手の2分55秒000よりも速いラップを刻んでいる。距離が違うと言っても高校生とシニア選手の力の差を考えれば、佐藤選手の走りが如何に素晴らしかったかが良く分かる。洛南高校の先輩後輩である三浦選手と佐藤選手。今後の成長が楽しみだ。

女子のベストラップは、シニア8㎞優勝の萩谷楓選手の3分14秒250。注目して欲しいのは、萩谷選手に次いで2位でゴールした高校生の酒井美玖選手(北九州市立)のラップ。酒井選手の3分17秒500は、U20で優勝した不破聖衣来選手の3分18秒166を上回るペースだった。中学時代には、圧倒的な走力で他の選手を大きく引き離し負けなしだった不破選手。U20で優勝したことで「高校生としてのラストレースで高校日本一を獲得した」と記事になっていた。しかし、実際には酒井選手には勝てていない。酒井選手は8㎞を走っての記録であることからも高校ナンバーワンの座は、文句なしに酒井選手にあると言える。それでも、酒井選手には勝てなかったにしても不破選手が強いのは事実。もし不破選手がシニア8㎞を走っていたとしても間違いなく上位に入っていただろう。若い二選手の今後の成長に期待をしたい。

<解説③> 〜厚底シューズが齎した箱根駅伝の走り方&好走する条件〜

レース全体を観て感じたことの筆頭は、ナイキ厚底シューズの使用率だろう。区間走者全員がナイキ厚底シューズを履いていた区間があったことを思うと箱根駅伝を走る学生ランナー達から圧倒的な信頼を受けているのを証明したことになる。しかし、シューズ使用率は高いのに着用した選手全員が好走している訳ではないことから考えると、シューズを履き熟している選手が実力以上の好走をして上手くフィットしていない選手が逆に失速しているという印象を受けた。

失速してしまった選手の多くは、フォームが不安定。体幹の弱さが原因でシューズの性能を活かしきれていなかった。例を挙げてみると下記のような選手が失速していた。

・上半身と下半身の動きが連動していない選手。
・カラダを左右に揺らして(傾いて)走っている選手。
・踏み込み時間が長くバタバタ・ドタドタと走っている選手。
・左右の脚力差があるので地面からの反発力に差が生じて歩幅が噛み合っていない選手。
・前半にシューズのバネを使い過ぎてしまい、後半は脚へのダメージに耐えられない選手。

山下りでは、シューズの反発力を最大限に活かして「滞空時間を長くする」のがポイント。大きなストライドで一歩の距離を稼ぎながら走ると区間記録が良くなる。逆に山登りでは「滞空時間を短くする」ことで一歩一歩が速くなりエネルギーロスの少ない走りができる。それが、快走に繋がる。厚底シューズの出現により箱根駅伝の走り方も変わってきている。大きな反発力を受けられるというのが最大の武器となり選手に力を与えてくれている。その反面、シューズの性能を活かせる脚力を養っておかないとレース中盤以降に脚が止まってしまいフラフラな走りになってしまう。箱根の山上りや山下り区間だけではなく他の区間でもシューズの性能を活かした走りが出来ている選手と活かせていない選手との差が大きかったのは興味深い事実である。

厚底シューズの出現は、実績のある選手が好記録を出すことに役立つのは勿論のこと、実績などない選手が厚底シューズの力を借りて一気にレベルアップできることを証明している。

「トップレベルの選手と肩を並べて競い合える!」
「今まで憧れの存在だった選手に勝つチャンスがある!」
「このシューズを履けばエリート選手と同じように走れる!」

そう思える気持ちと「自分もやれるぞ!」という自信を全ての選手に平等に与えてくれた。それが厚底シューズが日本の長距離界に齎した最大の功労ポイントだ。速く走る為に必要な選手のモチベーションを高める効果があるシューズ。大きな歴史の転換期を一足のシューズが迎えさせた。この現象は、中学生や高校生の舞台でも確実に起こっている。厚底シューズが起こす奇跡の快進撃は、まだまだ続く。どんな記録が生まれるか期待して待ちたい。

<解説②> 〜優勝候補が本番で勝つ為に必要なこと〜
東洋大学、青山学院大学、東海大学、明治大学などが優勝候補として名前を挙げられていた中でレースの主導権を握ったのは、創価大学だった。先頭を走る創価大学に各大学は、代わる代わる必死の追走を見せるものの逆にその差は開くばかりだった。なぜ、あれほどまでに差が出来てしまうのか。なぜ、創価大学の選手は安定して走れるのにエリート選手を揃える強豪大学が失速していくのか。

「優勝候補」と呼ばれて嬉しくない選手などいない。優勝候補として恥ずかしくない走りをしようとモチベーションが上がる。日々の練習に対する取り組み姿勢も変わる。より意欲的になり、より限界点が高くなる。「みっともない走りはできない」と思えば思うほど必死に練習をして優勝候補に相応しい力を身につけようとする。普段以上に集中して練習をするから、どんどん記録を更新していく。「優勝候補」と呼ばれることで選手個々のやる気と走力が上がり、それがチーム力を強固なものにしていく。メディアから騒がれることでチーム力が高まるのは良くあること。強いチームができる過程ではメディアの力は最高の外的要因となる。その反面、「優勝候補」と呼ばれることで勘違いをしてしまうチームもある。自分達には勝てる力があると思い込んでしまう。心身共に最高の状態に仕上げて100%の力を出し切ってこそ優勝を掴めるのに「自分達には勝てる力がある」と勘違いしてしまったことで危機感が薄れてしまう。心の中に少しでも油断が生じてしまうと100%の力を出せなくなってしまう。勝負弱くなってしまう。諦めやすくなってしまう。筋肉の緊張感が取れて脚に力が入らなくなってしまう。体幹軸が緩み、腰が抜けたような走りになってしまう。それが、「優勝候補」と呼ばれていたチームが思わぬ失速をして優勝争いから後退してしまった原因となっている。優勝候補だった大学の選手で本来の走りが出来ずに不本意な結果になってしまった選手の多くがカラダを左右に揺らして走っていた。心の油断があったかもしれない。

近年、高校のレベルが上がり、エリートと呼ばれる層の選手が増えてきた。かつては、10人程度しかいなかったエリート選手が、今では、20人以上いる。年によっては、30人近くなることもある。分母が増えた分、複数の大学に将来有望な選手が散らばっていく傾向になってきた。ひとつの大学に名の知れたエリート選手が集まるのでは面白くない。各大学に均等に力のある高校生が同数程度加入する方が、学生長距離界全体のレベルが上がる。今回の創価大学のように「蓋を開けてみたら先頭を走っていた」という大学が増えることが箱根駅伝の魅力を増すことに繋がる。高校時代にレギュラーメンバーとして全国高校駅伝を走り活躍していなくても箱根駅伝で活躍している選手は少なくない。下手な実績が無い方が監督の言うことを純粋に受け止めてガムシャラに練習してくれるから伸びるという話をよく耳にする。選手の可能性は無限である。スーパースター選手を並べても勝てないのに実績がない選手を鍛えて作った雑草軍団が優勝する可能性がある。優勝候補でなくても勝つチャンスがある。下手に優勝候補と呼ばれない方が余計な雑音が聴こえないのでチームは順調に仕上がる。

来年は、創価大学をはじめ國學院大学や早稲田大学、更には、今年不発に終わった明治大学も優勝候補に上がってくる可能性は十分にある。「そうは言っても、やっぱり、優勝は、青学、駒澤、東海、東洋でしょ!」という声もある。その通りである。高校駅伝強豪校からの進学先として、青山学院大学、東海大学、東洋大学、駒澤大学の人気は、相変わらず高い。生徒本人よりも家族の方が人気大学への進学を希望する傾向は変わらない。高校生の本音は「強くて毎年上位争いをする大学に入りたい」だし、家族の本音は「有名監督やスター選手がいる大学へ入って欲しい」だ。大学側が求める逸材と選手が指導を仰ぎたい指導者とのベクトルが一致して、尚且つ、そこが家族が行かせたい大学であったなら、その選手は大学進学後も順調に成長するだろう。「なんとなく声を掛けられたから決めた」というのではなく、「ここで絶対に花を咲かしてみせる!」と覚悟を持って進学先を決めた選手がいれば、そのチームは、「優勝候補」の筆頭になっても動じることなく襷を繋いでいけるだろう。

<解説①> 〜創価大学が3分以上ものリードを守れなかった理由〜

 テレビ観戦していたチームメイト、学校関係者、大会運営者、メディア、実況担当者など全ての人が創価大学の初優勝シーンを観れる思っていた。3分以上のリードがあれば、余程の大ブレーキをしなければ逃げ切れると思っていた。もし、創価大学が”まぐれ”で先頭を走っていたなら「どうせ抜かれるだろう」と高を括って観ているので逆転されても驚きは無かった。「箱根駅伝の名門大学とは、力が違うから仕方ない」と心づもりをして観ていたし、1区で区間賞を獲得した法政大学が2区で大きく順位を落としたように「すぐに追い抜かされる」と気楽に見ていられた。優勝候補に上っていない大学がトップに出ると「落ちていく姿を期待して、抜かれるシーンを待っている展開」になるのが常だ。しかし、創価大学の選手達は大崩れしなかった。往路に続き復路の選手達も安定感ある走りは健在。不安要素を感じない逞しくて立派な走りだった。多少追い上げられても先頭を走る強みを最大限に活かして堂々と走っていた。だからこそ「このまま逃げ切ってしまうだろう」と多くの方が確信して疑わなかった。9区までの選手達は、完璧に近い走りでトップを独走していた。10区の選手も同じように笑顔で快走するだろうとゴール後の喜ぶ姿をイメージしていた。周囲の誰もが「このまま逃げ切って初優勝を飾る!」と思っていただろう。そんな雰囲気が周囲に漂っていたからこそ、アンカーを任された選手には今まで経験したことがない大きなプレッシャーがのしかかっていたのではないかと推察できる。プロゴルフツアーの最終日の最終ホール。2打差リードしていながら30㎝のウイニングパットが決まらずにまさかの大叩き。掴みかけていた初優勝を逃してしまった選手の姿と重なった。得体の知れない重圧に自分が自分でなくなってしまう。冷静だと思っていても全くカラダが動かなくなる。競技は続いているので、そのままプレーは続けているが明らかに普段のプレーとは違う。”あり得ないプレー”をしてしまう。絶対に入る距離のウイニングパットを外してしまう。「このパットを決めればプロツアー初優勝。数千万円の賞金を獲得出来る!」という今まで経験したことのない究極のシチュエーションが我を忘れさせる。

 人は、今まで経験したことのない状況下に身を置くと必要以上に緊張する。今まで見たことがない景色を見ると一時的なパニックを起こしてしまう。どのように振る舞ったらいいか分からなくなるからだ。このパットを入れたら優勝。見たことのない大金を手にする。そういう経験がない選手は、手が震えてカラダが固まってしまう。だからメンタルトレーナーは、イメージトレーニングを推奨する。ライバルに勝って優勝し、観衆に手を振るシーンを何度も何度もイメージさせて「初めて見る景色」を過去に何度も見たことがある景色として脳に認識させる。これが勝者のイメージトレーニングとして活用されている。駅伝も同じことが言える。この襷をゴールまで繋いだら優勝。しかもそれが箱根駅伝の総合優勝となれば、正気ではいられない。優勝候補に挙げられるような大学で優勝テープを切るイメージが出来ている大学なら無難にまとめられただろう。しかし、初めての往路優勝に続き、復路でも独走して初の総合優勝となれば頑張る気持ちとは裏腹に精神的に混乱しても当然である。

 人のカラダは、繊細だ。憧れを抱くのではなく現実的に箱根駅伝優勝を達成する明確なイメージが出来ていないとカラダが言うことを効かなくなるのは当然である。ただ、襷を繋ぐだけ。大快走などしなくていい。普段の練習通りに走って、ゴールまで襷を届けるだけ。それが出来なくなってしまうのが、箱根駅伝優勝の重みであり、優勝する難しさだと改めて気付かされた。違う視点から考えてみると、もし、2位との差が1分程度で走っていたら優勝できた可能性もあったと分析することも出来る。1分差よりも3分差の方が気が楽だと考えるのは、駅伝を走った経験がない方の発想。あるいは、余裕で走れるくらいの大差があった方が楽に走れるというのは、経験豊富な常勝軍団の選手である。箱根駅伝の出場回数が片手で数えられる大学の場合、3分以上の差があることで走り始めに迷いが生じてしまう。想像もしていなかった大差がつくと、一瞬、緊張の糸が切れて、それを仕切り直さなくてはいけなくなる。「必死に逃げるしかない」というシチュエーションと「普通に走れば余裕で勝てる」というシチュエーションでは、経験の浅い大学にとって後者の方がプレッシャーを感じる。1分くらいの差で襷を貰った方が、気持ちに迷いがなく「抜かれたら抜かれた時だ」と開き直って走れるので結果的に好走することができる。開き直れるシチュエーションの方が、潜在能力を引き出すことができる。やはり3分以上の差があるシチュエーションは、難しい。心に迷いが生じる。「自重してスタートしても大丈夫だろう。暫く走ってから少しずつビルドアップしていこう」。そんな気持ちが心に芽生えてしまうと逆にリズムを崩してしまう。結果的に勢いに乗れないまま最初から最後までカラダが重く感じて走ってしまう。これが、駅伝独特のメンタルとフィジカルとのネガティブ相互関係である。

 誰もアンカーを走った選手を責めることは出来ない。彼は、精一杯頑張った。あの瞬間に出来る最大限の力を発揮して、最高の走りをしようと全力を尽くした。それ以外のなにものでもない。ただただ、創価大学の選手達の健闘を称えたい。創価大学の選手達よ。絶対王者や優勝候補の大学を抑えての準優勝。堂々と胸を張って共に戦ったチームメイトと2021年の箱根路を沸かせた自分達の頑張りを誇りにして来年へのステップにして欲しい。

女子の優勝とは違い、選手7人が強さを発揮したという点では、あっぱれと言える。

1区から優勝射程圏内でレースを進めて、3区で先頭に出る。

後続との差を約1分に広げて後半への貯金をつくる。

その後は、貯金を使いながら逃げるだけ。

アンカーでは、仙台育英が追ってくる展開でも慌てることなく貯金を有効利用。

徐々に差を詰められながらも安定した走りをして堂々と逃げ切った。

ざっと説明すれば、そんな感じで世羅の優勝を語ることができる。

しかし、今回の優勝は、他チームが本領発揮できなかったことが大きな要因だ。

<男子レース解説>
世羅の優勝は、1区を終えた時点でほぼ決まっていたと言って良い。1区を終えた時点で洛南と世羅の差が12秒。佐久長聖と世羅の差が4秒。仙台育英と世羅の差が1秒。ここで最低でも20秒。留学生を擁していない学校は、30秒から40秒の貯金を作らないと事実上、優勝は見えてこない。留学生に襷を渡す2区を終えた時点での秒差は、留学生を擁しない佐久長聖と世羅の差が12秒。洛南と世羅の差が6秒。この秒差で襷を繋いだ世羅に軍配があがるのは当然である。世羅の4区を走った新谷の走りは不安定そのものであったが、それは、優勝というプレッシャーがあるが故のオーバー・ジェスチャー。主将である自分がチームに迷惑を掛けたくないという思いからの”言い訳”を用意しただけのことである。それでも十分すぎる貯金があるので襷はトップのまま繋がれていく。その後も全く危なげない走りでトップを維持してゴールテープを切った。他校が優勝を狙うなら、やはり1区で大きな貯金を作れる選手を育てなければならない。あるいは、1区と2区で1分差をつけて更に5区・6区・7区にも13分台選手を配置できるチーム力が必要。今大会も幾つかのチームに先行するチャンスはあっただけに残念であった。

留学生を使うことの賛否は、様々な議論がある。それについては、ここでは述べないが例年以上に大きな力の差がついた背景には、やはりナイキ厚底シューズの影響がある。日本人よりもアフリカ勢の方がナイキ厚底シューズの力を得られる。それは、何故か。元々、アフリカ勢がフルマラソンで2時間を切る為に開発されたシューズである。骨盤が前傾しているアフリカ勢に合わせて作られたシューズをアフリカ勢が履いたら大快走をするのは当然と言えば当然である。今回の駅伝では、日本人選手による大幅な記録更新は見られなかった。しかし、留学生は、区間新記録の大快走をした。それには、シューズの特性を活かせる体型が関係している。ナイキ厚底シューズには、向き不向きがある。それを決定づけるのは、骨格の違い。前傾姿勢を保った走り。接地時に膝下が伸びる走り。それが自然と出来る選手には、大きなアドバンテージが得られる。今回、ナイキ厚底シューズを履いた留学生は、例年以上に速く・強かった。

世羅が優勝できた背景には、世羅という地域性がある。小さな町であるが故に街を挙げての全面的なバックアップがある。高齢者の多い地域。新型コロナウィルスへの感染を危惧する反面、高齢者がステイホームしていれば、選手達は気兼ねなく”自主練習”が出来る。また、山の中に作られたクロカンコースは、一般人の往来はない。山に集合して山で解散すれば、全く人目を気にせずに練習が出来る。その利点は非常に大きい。学校が休校になっていても全く関係ない。首都圏や大都市にある高校の生徒は、思うように”自主練習”が出来なかった。自粛警察の目があり、2~3人でジョギングすることさえ出来なかった。自粛要請期間中の”自主練習”の違い。その差が、今回の結果の差になったと言える。

世羅の選手個々の力に疑いはない。留学生一人に頼らない総合力があるから優勝することが出来た。10回目の全国優勝。素晴らしい実績であるが、過去の先輩達が築いてきた全国優勝とは、別物だと考える世羅OBもいる。「自分達がやってきたこと。自分達が成し遂げたこととは、重みが違う」と感想を述べるOBは少なくない。「正直、手放しに喜べない。洛南や佐久長聖や須磨学園の方が立派に見える」。そう語るOBの気持ちを考えると複雑な思いがする。

国際交流目的。最新型のギアを着用する。特別な練習環境がある。時代の流れに乗った学校が全国優勝をする。今年、13分台ランナーが多数生まれたことが話題になる一方で留学生との力の差も広がっている。テレビに映るくらい実力がある上位校には、ナイキをはじめとしたスポーツメーカー各社が専属契約をして最新ギアの無償提供など強力なサポートするが、中堅校や下位校は、自力で勝負しなくてはならない現実。留学生という大砲を擁する上に様々な面で恵まれている学校に勝つ為には、誰からも干渉されずに練習できる環境とハイスペックギアを調達できるバックアップ体制が必要。それが無ければ、世羅の全国優勝回数は、どんどん増えていくことになる。

世羅だけではない。教育の一環という建て前があるので一見平等にチャンスが与えられていると思いがちだが、実際には、不平等な戦いを余儀なくされている。留学生をひとりの高校生として扱う平等があるが故の不平等。強豪校に与えられている特別なサポート体制。一般の高校生とスポーツエリート校の選手との日々の生活の違い。学校教育下での不平等は沢山ある。それを理解した上で男女アベック優勝を果たした世羅高校の快挙を称賛したい。

↑このページのトップヘ