誰も予想していなかった2時間4分台の日本新記録誕生。

女子会気分でお祭り騒ぎのような実況中継ではないからこその日本記録更新。

チャラチャラしたマラソン中継ではなく堅実で落ち着きのある実況が心地良かった。

<2021びわ湖毎日マラソン結果>
  1.2:04.56 鈴木健吾   (富士通)
  2.2:06.26 土方英和   (Honda) 
  3.2:06.35 細谷恭平   (黒崎播磨)
  4.2:06.47 井上大仁   (三菱重工)
  5.2:06.51 小椋裕介   (ヤクルト)
  6.2:07.12 大六野秀畝  (旭化成)
  7.2:07.18 S.カリウキ  (戸上電機製作所)
  8.2:07.20 菊地賢人   (コニカミノルタ)
  9.2:07.26 聞谷賢人   (トヨタ紡織)
10.2:07.27 川内優輝   (あいおいニッセイ同和損保)

<解説>
堅実なレースだった。確信が持てる走りだった。「歴史に残る日本新記録が誕生する瞬間というのは、こうでなくちゃいけない!」と思える緊張感に溢れたマラソン中継だった。

天候に恵まれたのが最大の要因。風が無く、暑さも寒さもない。これほどの好条件下で走れた選手達は本当にラッキーだった。力のある選手すべてが好記録を出した訳ではない。期待されたが後半に大きく失速した選手も少なくなかった。今現在もコロナ禍にあり、どの選手も完璧な準備が出来た訳ではないはずだ。そんな中でもきちんと仕上げてきた選手が絶好の気象条件を味方につけて好記録を出した。すべては「奇跡の好条件」が生み出したと言って良い。最後のびわ湖毎日マラソンは、日本のマラソン史に残る最高のレースとなった。

好記録が出たもうひとつの要因には「走りの美しさ」がある。レース後半、特に30㎞を過ぎてから1位の鈴木健吾選手と2位の土方英和選手の走りは際立っていた。腕振りも足の運びもコンパクトで動きに無駄がない。レースを観ている視聴者が「このペースで大丈夫かなぁ…」とハラハラ・ドキドキしてしまうような不安要素のある走りではなかった。この前の大阪国際女子マラソンのように盛り上げるだけ盛り上げて、結局は期待された記録が出ずにガッカリさせられるのではないかという心配な気持ちになることもなかった。鈴木健吾選手の走りは、兎に角、美しかった。これこそが「日本人に最も適した理想的な走り」と言って良いほど綺麗な走りだった。日本記録を作った大迫選手と設楽選手の走りは、ダイナミックで勢いを感じる一方で「失速した時にフォームが崩れやすい」という脆さもある。しかし、鈴木健吾選手の走りは、派手さはなく地味だが見ていて”美しい”。レース終盤でも変わらず軽快なピッチを刻み続ける走りには余計な力みがなく、極めてエネルギーロスの少ない超省エネ走法。30㎞以降、1㎞過ぎる毎に「力強さ」と「美しさ」が増していった。最後まで「美しさ」を保ったまま「2時間4分56秒」でゴールに飛び込んだ姿に我々は魅了された。

鈴木健吾選手が所属している富士通でコーチを務める高橋健一氏は、「弾丸ランナー」として知られた選手。2000年には当時のハーフマラソン日本記録を樹立している。2001年東京国際マラソンでは、35㎞まで当時の日本記録を上回るハイペースで突っ走るなど積極果敢に攻める走りが特徴のトップランナーであった。今から20年前に1㎞3分を切るペースで走れる選手は多くなかったが高橋健一氏は「2時間6分を切るのではないか!」と日本中を沸かせてくれた素晴らしいランナーだった。20年前に自分が出来なかったことを教え子でありチームの後輩でもある鈴木健吾選手がやってのけたのは偶然ではなく運命だと言って良いだろう。

日本人初の2時間4分台に沸いたびわ湖毎日マラソン。日本人初の2時間4分台が出たコースとして我々の記憶に残るだろう。様々なドラマを作ってきたびわ湖毎日マラソンが幕を閉じるのは、一抹の寂しさを感じざるを得ない。多くの感動を我々に与えてくれた功績はひと言では語れない。今日と言う日が、日本男子マラソンの歴史が大きく変わった日として後世まで語り継がれることを期待する。大会運営に携わった関係者の皆様へ感謝の言葉を述べたい。「沢山の感動を与えてくれてありがとう。我々はびわ湖毎日マラソンを永遠に忘れない」。