故人・小出義雄監督が良く言っていたセリフにこんな言葉があった。

「どうして今の若い子(指導者)達は、こんな簡単なことができねーのかな」

「いい子(選手)が目の前にいるのに、ぜ〜んぜん気付かない」

「その子の良い所が、わかんねーんだよ」

「見る目がねーんだよな、きっと」

「おれが、教えてやんなきゃダメかなッ?あはははは!」

確かに、小出監督が「おい!あの子は、伸びるぞ!」と言った選手は、伸びている。

その後、みるみるうちに成長して日本代表になった選手もいる。

不調にあえぎ落ち込んでいる他チームの選手にも「どうしたんだい!」と声を掛ける。

「泣くことはないよ〜。ぜ〜んぜん大丈夫」と笑顔で話しかける。

暫く雑談をしているうちに泣いていた選手に笑顔が戻る。

落ち込んでいた選手が冗談を言えるようになる。

そして、次の試合では快走してみせる。

不思議な力だと思った。

他愛もない声掛けなのに声を掛けられた選手が元気になる。

秘められていた力が芽生えてきて次第に結果を出し始める。

そんな「言葉の力」を持っているのが小出監督の魅力であった。

選手をその気にさせる力。

「わたしにも出来るかもしれない」と思わせる力。

不安な気持ちを和らげて安心して試合に臨めるようにしてくれる力。

選手の心を掴んで不安を自信に変えて別人に生まれ変わらせてくれる力。

試合で力を発揮できなかった自分を世界一の選手になれると思わせてくれる力。

人の懐に入り込むのが上手な小出監督は、良い意味での「ひとたらし」であった。

指導者に必要なのは「選手の心を掴むこと」だと様々な場面で我々に教えてくれた。

選手をやる気にさせることは、簡単ではない。

選手の能力を引き出すのは、並大抵のことではない。

褒めても叱っても意欲を取り戻せない選手は沢山いる。

毎日エンジン全開で真正面から選手と向き合うことなどできない。

「この子は、弱い選手。ダメな選手」だと諦めてしまう指導者は多い。

「頑張らせようにも本人のやる気が無いのでは教えようがない」と匙を投げる。

多くの高校駅伝強豪校で能力のある選手が、意欲を失い、自信を失い、夢を失っている。

そんな状況を小出監督が見たらどんな行動をするだろうか。

指導者に対しては「〇〇君も大変だなぁ~。うんうん」と笑顔で労をねぎらう。

選手に対しては「がんばってるなぁ。すごいなぁ。強くなるなぁ」と笑顔で褒める。

指導者として壁にぶつかっていたり、伸び悩んでいる選手に対して、ダメ出しをしない。

まずは、「それで、いいんだよ」「な〜んにも悪くないよ」と認めてあげる。

心の中にあるつっかえ棒を取り除いて自分自身へのわだかまりを解消してあげる。

指導者に対しても選手に対しても「自己肯定させる言葉掛け」をして肩の荷を降ろさせる。

自己肯定感を抱くことで心は落ち着きを取り戻し、ネガティブマインドから脱出できる。

「いいんだよ」という言葉が「どうせ自分はダメだ」という自己否定を和らげる。

自分の心の中にある不安を少しでも認めて貰えることで気持ちが楽になる。

そういう人の心の中にある感情を瞬時に読み取り、ひとことで解消させる言葉の力。

それを上手に使いながら選手をその気にさせてトップ選手へと育てたのが小出監督である。

現役で指導現場に立っている指導者へ言いたいこと。

言葉が持つ力を理解すれば、声掛けの仕方も変わる。

声掛けの仕方が変われば、選手との向き合い方が変わる。

選手との向き合い方が変われば、選手への見方が変わる。

選手への見方が変われば、選手からの見られ方も変わる。

選手からの見られ方が変われば、言葉の力の大きさが変わる。

言葉の力の大きさが変われば、選手のパフォーマンスが変わる。

選手に快走して欲しければ。

選手に結果を出して輝いて欲しければ。

普段、なんとなく使っている言葉を見直してみること。

自分本位な声掛けではなく相手の心に響く言葉掛けをすること。

それが、選手を育成する上で最も大切なことであると故人の言葉を借りて伝えておきたい。