男女10000mで日本新記録が出て大きな盛り上がりを見せた2020日本選手権長距離種目。

東京五輪代表内定者を出すことができて陸連が望んでいた成果を無事に出すことができた。

しかし、それは、偶然の賜物であると敢えて言っておきたい。

選手は、この試合に向けて最大限の努力をしてきた。

試合でも五輪切符を掴む為に全力を出して走り切った。

すべては、選手の五輪に懸ける想いが数々の好走を生んだ。

陸連が計画的に強化をしてきた成果ではない。唯一の成果は、この場を作ったこと。

そもそも、新型コロナが無ければ、この時期に日本選手権を開催することは無かった。

上半期に体を休ませることができた分、この時期に好調を維持して試合に臨めた。

体力的な要素、日程的な要素、気象条件的な要素が揃ったからこそ生まれた記録である。

東京五輪が開催されていたとしてもここまでの成果は出なかっただろう。

自国開催の五輪で世界の壁に跳ね返される散々な結果だったと予想するのが妥当だ。

しかし、幸いにも良い流れで来年を迎えられる雰囲気になってきている。

今回の選手達の頑張りが東京五輪本番でも100%発揮されることを期待したい。


<女子5000m>
序盤はスローペースとなり「また時代を後戻りさせるのか…」と若干の危惧もしたが、さすがに廣中選手はラスト1000m勝負にはさせたくなかったのだろう。2000m過ぎからペースを上げて3000mからはエンジン全開でビルドアップしていった。廣中選手と田中選手とのマッチレースは、結果的に1秒差で田中選手が優勝し五輪代表内定を獲得した。両者は、後半の2000mを5分40秒台で上がる強さを見せた。日本国内では近年珍しい最後まで見応えのある素晴らしいレースだった。印象に残ったのは、ゴール後の表情。惜しくも2位となった廣中選手は、ゴール後、田中選手に歩み寄り握手をしようとしたが、その意味が分からなかったのか、あるいは、余裕がなかったのか。田中選手は、廣中選手の歩み寄りを受け入れることなく苦しい表情をしたままだった。ゴール後の表情、仕草、発言を基に分析すると本当の勝者は、レースの9割以上をつくった廣中選手かもしれない。ゴール後、明らかに余裕があったのは2位の廣中選手。五輪代表内定を獲得した田中選手には笑顔もなければ、他の選手の健闘を称える余裕もなかった。表情だけ見れば、どちらが勝者か分からなかった。それくらい田中選手にはプレッシャーが懸かっていたというのも理解できる。唇の状態は夏からずっと荒れたまま。内臓疲労かストレスによるものか。栄養管理は大丈夫なのかと心配になってしまう。かつて日本代表として世界の舞台で活躍したある選手は、若手選手の唇が荒れているのを見ると「栄養管理は大丈夫?余計なストレスを溜めていない?お腹が痛くなったりしない?」と声を掛けて、すぐに栄養士とメンタルトレーナーを紹介した。そういう細かなことまで気が回るスタッフが田中選手の周りにいるのだろうか。それだけが心配である。真面目な選手が真面目が取り柄では世界で戦えない。笑顔が無いトップアスリートなど居ない。1位でゴールしても笑顔がなく疲れ果ててしまうくらい自分を追い込んでいる田中選手には、コンディショニングサポート担当が必要。800mのレースでゴール直前で転倒してしまったのも躓いたからではく神経系の問題だというのは明らか。無抵抗に頭から転倒しているのも気になる。田中選手の管理を親任せにすることなく専属のコンディショニングサポートスタッフをすぐにでも用意してあげて欲しい。代表内定については、陸連も頭が固い。誰がどう見ても廣中選手の成長が著しいし、レースを組み立てたのは明らか。田中選手に代表内定を出するなら「レースを組み立てる能力と積極性」を条件にしなければ公平性は保てない。「1500mと3000mで日本記録をつくった田中選手の方が力が上だ」という先入観があるから冷静な判断が出来ない。1位を獲得するのが内定条件なのは分かる。だとしてもレースの9割以上を一人で組み立てた廣中選手にも代表内々定を与えるべき。それでこそ選手は、頑張って走った甲斐がある。選手は消耗品であることを忘れてはならない。毎回、100%全力で走らせていたら選手生命は短くなる。余計な全力疾走など必要ない。廣中選手には、もう余計な試合を課す必要はない。五輪本番での伸びしろをつくる為にも全力疾走は、五輪本番だけに専念させるべき。もう一度言っておきたい。選手のカラダは消耗品である。選手が神経をすり減らしてまで行う無駄な競り合いに生産性はない。五輪本番を見据えた戦略的なコンディショニングとレースマネージメントを陸連には期待したい。


<男子5000m>
レースを解説するまでもなく坂東選手の強さが光ったレースとなった。坂東選手の力は本物だし、高岡寿成選手以来の大型ランナーだと期待が持てる。特徴は、高身長なのにピッチ走法で走ること。大きくストライドを広げてバネを使って走るのではなく身長の割にチョコチョコと刻んで走ることでエネルギーロスの少ない走りを実現している。それが後半までエネルギーを温存できる利点となっている。今後の伸びしろを考えると次回の五輪までには、世界レベルの走りが出来ているかもしれない。坂東選手だけでなく日本人が5000mで世界レベルになるかは、今のところ先が見えない状態だと言って良いだろう。今回も見せ場を作った大学一年生の吉居選手がラスト200mまで1位争いに絡む走りをしていたら男子長距離界の未来は本当に楽しみになったが、まだ、あと一歩力が及ばなかった。もう暫く時間を掛けて5000mのスペシャルの登場を待ちたいと思う。


<女子10000m>
新谷選手の一人舞台であるのは分かっていた。しかし、その舞台をチームメイトの佐藤選手が演出したところから感動物語が始まったと言って良い。新谷選手が強いと言っても1周目から一人で独走するのはレース後半の伸びを欠く要素になる。出来るなら1000mでも2000mでもペースメイクをしてもらい力を温存させて欲しいというのは、日本記録更新を期待する者なら誰でも思うことだ。絶妙なペースメイクだった。1000mを3分02秒。2000mを6分08秒。ここで走りに余裕ができたのは間違いない。非常に上手いペースで佐藤選手は走ってくれた。まさに立役者になってくれた。そして、そこからの新谷選手は強かった。一人舞台は圧巻であった。新谷選手が強過ぎて30分20秒という記録の価値が分かり難くなっている感もある。単純に考えた方が、その価値が分かる。5000mを15分10秒ペースで2回走る。もっと分かり易く説明すると…新谷選手は、前半の5000mを15分07秒で通過した。この日、5000mを走った田中希実選手の優勝記録は15分05秒。2位の廣中璃梨佳選手が15分07秒。5000mの優勝争いをした後、そのままのペースで更に5000m走り続けたことになる。5000mに出場した選手達は、新谷選手の5000mのラップを聞いて鳥肌が立ったことだろう。5000mを2回。15分07秒と15分13秒。この記録よりも速く走れる日本人選手は、今現在、片手で数えられるくらいしかいない。このように説明すれば新谷選手の実力と価値を理解して頂けるだろう。過去の記事で「新谷選手は金のために走っていない」と紹介した理由は、そこにある。所属企業やスポンサー企業が新谷選手の実力と価値を本当に理解しているとしたら新谷選手の年収は1億円以上なくてはおかしい。当然の金額だ。新谷選手には、1億円以上貰う実力と価値がある。新谷選手への注目度と新谷選手が生み出す経済的効果を考慮すれば、推定年収は2億数千万円と算出する専門家もいる。それが、「新谷選手はお金の為に走っていない」と記事にした理由となる。女子の日本人長距離選手としてトラック種目のみで年収が1億円を超える選手は新谷選手が初めてになるはずだ。この日、新谷選手が成し遂げた30分20秒という大記録の価値を日本陸連は勿論、スポンサー企業にも真剣に理解して欲しい。新谷選手の走りに対する追記として…2位以下に1周差をつけたレースは、過去にもある。自分以外の選手全員を周回遅れにした。あの時から既に新谷選手の力は群を抜いていた。他の選手達がナイキの高性能シューズの力を借りて自己記録を更新する快走をしても尚のこと周回遅れにされてしまう現実を他の日本人選手達も理解をして実業団選手と呼ばれるに相応しい走りを欲しいと強く願う。


<男子10000m> 
新谷選手の快走に沸いた女子10000mよりもレース全体が面白かったのが男子10000m。役者が揃うと自重したりなどしない。兎に角、次から次へと日本人トップに出るレース展開は見応えがあった。鎧坂選手、大迫選手、田村選手、伊藤選手、相澤選手などが代わる代わる日本人トップに出てペースを落とさない展開は本当に面白さがあった。田村選手は、調子の良さを感じていたからこそレース中盤で足を使い過ぎた感は否めない。勿体なかった。積極性は時として仇になる。我慢して我慢して我慢して機を伺うことも大義を果たす為には必要。中盤で足を使わないでジッとタイミングを待っていればラストまで優勝争いに加われた可能性もある。潜在能力的には、27分15秒を切る力は十分にある。準備をして待っていればチャンスは必ず訪れる。田村選手が日本記録を塗り替える日が来ると期待をしたい。レースは、8000mを過ぎてからが最も見応えがあった。相澤選手と伊藤選手の壮絶な走りは、かつての日本男子長距離界を彷彿させる見事な走りだった。伊藤選手の粘りは半端ない。普通なら気持ちが折れてしまう状況でも復活して先頭を追いかける執念。そういう気持ちを持った選手が現在の日本男子長距離界にもいるというのが未来を明るくする材料になる。伊藤選手は、同じような好条件下でのレースに恵まれれば田村選手同様に27分15秒を切る力は十分ある。あの執念があれば、いつか必ず「かけっこの神様」は微笑んでくれるだろう。体を揺らしてまで前へ行く気持ちがある選手に上限はない。伊藤選手に欲しいのは、体の軸をブラさずにスピードを上げる体幹の強さ。スピードアップした時にストライドが安定しなくなる癖があるのでスピードを上げ下げする度にストライドがバラバラになる。これは、大きなエネルギーロスとなっている。気迫に溢れた闘志むき出しの走りが長所である一方、その走りではエネルギー消費も大きくなる。体を揺すってまでしてスピードを上げるのはラスト勝負のみ。それ以外はフォームを崩さずにピッチを上げるだけでスピードの変化に対応できるようになれば強さは倍増する。伊藤選手が更に強くなった姿を見てみたいと素直に思えるくらい人の心を掴む走りをする魅力にあふれた選手。再び日本記録更新に挑む日が来るのを期待して待ちたい。優勝し東京五輪代表内定を勝ち取った相澤選手は、腿の使い方が上手。走った中で一番フォームが安定している。鎧坂選手、大迫選手、田村選手のようにストライドを延ばしてバネを使って走るのではなく同じフォームのままピッチ数を上げてスピードの変化に対応できるのが一番の強みである。途中、苦しい走りに見えた瞬間もあったが、体を揺らして無理に追いつこうとしなかった分だけラスト1000mからの力が残っていた。足首のキック力で走るのではない。太腿の力で走れる選手。ある意味、日本人離れした足の使い方をする選手である。実にエネルギーロスの少ない走りだ。勢いとタイミングさえ合えば、おそらく27分05秒程度まで記録を更新できる可能性がある。1周につき0.8秒ラップを速くするだけ。不可能な記録では無い。狙える時には遠慮なく、そして貪欲に記録を狙いに行って欲しい。男子10000mで好レースが見れたことは、今後の日本男子長距離界の未来を明るくする第一歩となるだろう。


最後に言いたいことは、多くの皆さんも感じた通り「実況の酷さ」だ。

会場内でのアナウンスは、タジタジのバラバラ。

言葉に詰まるから言葉を発するタイミングがズレている。

ここぞというタイミングでアナウンスするから選手の背中を押す力になる。

ここぞというタイミングでアナウンスするから観ている者の心が高ぶり躍る。

言葉の力。声のマジック。それを意識して当事者の心を読むことで絶妙なセリフが出る。

ただ、レース実況するだけなら、プロのアナウンサーに実況して貰う方が心地良い。

プロのアナウンサーでないなら、担当者は、もう少し勉強した方が良いだろう。

常識として覚えておいて欲しいのは、1周毎のラップに「セカンド」は不要。

ペースメイクをしている外国人選手の為に英語で伝えているのだと思うが…

66秒と言う際は、数字のみ伝えれば良い。秒を訳して「セカンド」と言う必要はない。

その理由が分かるだろうか。何故なら、それが秒単位なのは分かっていることだから。

「ミニッツ」ではないし「アワー」でもないのは、言わなくても分かることだ。

多分、海外留学や海外生活をしたことがない方がアナウンスをされていたのだと思う。

いや、もしかしたら陸上の経験が無い方なのかもしれない。

陸上経験者なら誰でも分かっている常識。それは「秒」を言わないで伝えること。

1分3秒は「63!」、1分12秒は「72!」、1分36秒は「96!」1分40秒は「100!」。

いちいち秒をつけて言わないし、省略することは業界の常識である。

それは英語にした時でも同じである。数字のみを伝えれば良い。「セカンド」は不要。

勿論、担当している方々への感謝の気持ちは忘れてはいけいないし敬意を持つことも大事。

それを理解した上でアナウンス担当者の質を高める努力を大会運営者に求めたい。

大会運営に携わる者の「小さな努力」が、一発勝負に懸ける選手に「大きな力」を与える。

今後の陸上界の発展の為にも、来年以降の大会に是非活かして欲しい。