田中希実選手が8分41秒35の日本新記録を打ち立てた。

それまでの記録は、福士加代子選手が持っていた8分44秒40。

萩谷楓選手も8分48秒12の日本歴代3位の快走を見せた。

日本記録更新に沸く陸上界だが、冷静なのはジュニア選手たち。

「田中希実選手より私たちの方が速い」

「私たちが高校生になる頃には、もっと速い記録で走れる」

「私たちの時代は、8分30秒切りが当たり前と言わせたい」

このように語るジュニア選手が複数いることは実に頼もしい。

口先ばかりではない。夢を語っているのでもない。

描いている未来像と実現までのロードマップが明確にある。

1500mを4分を切って走ることを前提に段階的な強化をしている。

成長期の体型の変化に戸惑わない基礎的カラダ作りへの認識を高めている。

早熟型の選手が陥りがちな800mしか走れないという苦手意識を持たない工夫。

小学生でも3000mを当たり前のように軽快に走れる心のスタミナ養成。

鈴木亜由子選手のように「陸上しか出来ない選手にはならない」という覚悟。

「伸び悩み」を感じることなく実業団選手まで育つ様々な環境を整えている。

8分30秒切りを実現するのに必要な走力・意識・環境を兼ね備えている。

あるジュニアチームの選手たちが、このように話してくれた。

「日本記録は出たけれど8分台が2名だけだったので残念」

「殆どの選手が9分を切れないなんて不思議でしかたない」

「8分台で走るのって、そんなに難しいことですか?」

「毎日ちゃんと練習をしているのかな?」

「高校生で9分ひと桁で走れる選手って沢山いますよね?」

「知り合いのお姉さんも高校時代に9分ひと桁で走ったと言っていた」

「そういう選手達は、なんで8分台で走れないんですか?」

「どこにいってしまったんですかね?」

「もっと、8分台の選手が沢山いてもいいと思うけど」

「実業団選手になると仕事が忙しいから練習時間が無いんですか?」

首をかしげながら話をする子供達の姿を見て、なんだか少し安心した。

今のジュニア世代の選手達は、8分台で走ることへの壁がない。

「今の記録がそれだったら、自分達の頃には、もっと速くなって当然」

そう思っているから8分41秒が特に凄い記録だとはまったく思っていない。

記録に対する恐怖心など一切ない。

8分台が大変なことだとは、これっぽっちも思っていない。

「田中希実さんが走れるんだから私たちだってできる」

「私たちの方が若いんだから、もっと速く走れて当然」

「10年後には、今よりも10秒速く走れる時代になっている」

素直な気持ちでニコニコ笑いながら、そう話してくれた。

現在の記録低迷の原因は、選手を取り巻く環境と周囲の大人の影響が大きい。

意識の低い大人の余計な情報が、記録更新に対する「心の壁」を作っている。

純粋な心を持つジュニア選手の夢は、壮大に広がっている。

無限の可能性を信じて疑わない。

自分達は、今の選手よりも速くなって当然だと思っている。

そういう高い意識を持ったジュニア選手がいることを知って欲しい。

3000m8分30秒を切るのが当たり前の時代がやってくる。

ジュニア世代の子供たちは、ガチでそれを目指している。

日本記録更新に対する特別な意識など抱いていない。

10年後の姿を信じて努力している子供達には、明るい未来しかない。