新型コロナウィルス拡散防止措置として外出自粛となった期間。

学校は、休校となり部活動も休止になっていた。

数か月に及ぶ期間、生徒達は自主練習をすることになった。

多くの部活顧問は電話やメールで生徒と連絡を取り合い練習指示を出した。

しかし、一ヶ月が経ち、二ヶ月が経った頃、「これはヤバい」と気付いた。

生徒が丸々と太ってしまい、見る影がない姿になっていた。

やる気を失い、陸上以外のことに興味を持つようになっていた。

もう陸上はやらないと言う生徒が次から次へと出てきた。

「えっ?なんで、週に何度も連絡をしていたのに…」

「練習メニューを与えて練習を継続するように励ましたのに…」

自主練で毎日走っていると思っていたが、実際には、殆ど走っていなかった。

何度も何度も電話やメールで「やっておきないさい」と伝えたのに・・・

生徒には、その声は届いていなかった。

大人でも強制力がなければ自分を律して行動などできないことは多い。

「これをやっておくように」と言われただけでは、やらないことも多々ある。

「陸上が好きなら走ってくれていると思っていた」

「時間は沢山あったはずだから少しの時間でも練習をしていると思っていた」

「進路決定などのこともあるから真剣に考えて頑張っていると思っていた」

そんな期待は、顧問の妄想でしかなかった。

生徒達は、想像以上に練習をしていない状態で学校に戻ってきた。

電話やメールで連絡する以外の方法が無かったのは事実である。

顧問が生徒を集めて練習をさせているとすぐに校長から呼び出される。

どこにどんな目があるのか分からないが、すぐに告げ口をされてしまう。

「せめてやる気がある生徒だけでも…」と善意で何人かの生徒に呼びかけると…

「私たちは無視された」と声を掛けられなかった生徒が不満を言う。

「声を掛けても練習に来ないじゃないか…」と言いたくなるがグッと堪える。

何もアクションを起こさないと生徒は練習をしてくれない。

しかし、何かをやろうとすると不平不満を言ってくる。

八方ふさがりの状態でモヤモヤしながら過ごした教員は少なくない。

そんな時に何の規制も無く練習を継続しているクラブチームが羨ましくなる。

スポーツ強豪校が何事もなく練習を継続していると聞くと妬みたくなる。

教員でいるからこそ動きが取れずに指を咥えて観ているだけしか出来なかった。

試合が始まると「練習をしていた生徒」と「していなかった生徒」の差は明らかになる。

成績次第で進路にも影響する。どこまで自分が責任を取れば良いのか分からない。

「俺は、最善を尽くした。結果が出ないのは、練習しなかった生徒のせいだ」

そんな言い訳をすることも出来ずに全ての責任を取らされてしまう。

何をやっても裏目に出てしまう。部活顧問の葛藤は続く。