優勝したクレイアーロン竜波と川元奨の力の違いは「見た目以上にある」ことを解説する。

1.1:46.59 クレイアーロン竜波(相洋高)
2.1:46.78 川元 奨 (スズキ浜松AC)
3.1:48.32 西久保達也(早稲田大)
 (クレイアーロン選手が高校新で優勝!by MOTOKI チャンネル)

ラストの直線の走りを後方から撮影している、この動画を見ると「見た目以上の力の違い」が、明らかに分かる。

伸びやかに脚の回転を上げていくアーロンに比べて、川元は、明らかに太腿が重い。だから、脚の回転数が上らない。踵の動きを見ると違いが良く分かる。力んでいる川元に対してアーロンは、ゴールが近づくほど高速回転になっていく。

更にゴール後の様子を見ると、もっと顕著に「見た目以上の大きな力の差」が分かる。

ゴール後、すぐに立ち止まってしまう川元に対して、アーロンは、かなり遠くまで駆け抜けている。脚がスムーズに高速回転しているので、その動きを止めるのにも減速距離が必要になる。川元は、既に脚に力がないので、すぐに足を止めてしまった。しかも、太腿が重たそうな仕草をしながらである。

この違いを、日本の多くの指導者が理解出来ていない。

「筋肉は、大きく太くしてはいけない」
「中長距離を速く走るには、パワートレーニングは必要ない」

モロッコの英雄として語り継がれている、サイドアウィータという選手の言葉である。
その実績は、言うまでもないが、一応、紹介しておく。

   <メダル実績>
1983年 世界陸上ヘルシンキ大会(フィンランド)
    1500m 銅メダル 3分42秒02
1984年 ロサンゼルス五輪(アメリカ)
    5000m 金メダル 13分05秒59
1987年 世界陸上ローマ大会(イタリア)
    5000m 金メダル 13分26秒44
1988年 ソウル五輪(韓国)
    800m 銅メダル 1分44秒06
1989年 世界室内ハンガリー大会(ブダペスト)
    3000m 金メダル 7分47秒94

   <自己記録>
・800m        1分43秒86(1988年)
・1500m      3分29秒46(1985年)
・1マイル    3分46秒76(1987年)
・2000m      4分50秒81(1987年)
・3000m      7分29秒45(1989年)
・5000m    12分58秒39(1987年)
・10000m  27分26秒11(1986年)
・3000mSC 8分21秒92(1987年)


『筋肉を大きくし過ぎてはダメだ。筋肉の重さは、自分の能力を軽減させる。私は、記録を追い求めるがあまり、ふくらはぎの筋肉を大きくし過ぎてしまった。数グラムの違いだが、この重さは命取りになる。だから、私は、ふくらはぎの筋肉を切除してベストな重さに戻した。』

これは、アウィータ本人から直接聞いた話である。手術した箇所も見せてくれた。
アキレス腱から真っ直ぐに、ひざ裏までメスを入れた傷跡がハッキリと残っていた。

彼は、こう付け加えた。

『マシンや器具を使って行うトレーニングは、基礎的な体力を養うには必要かもしれない。しかし、世界レベルの記録を出すには、自重負荷トレーニングで十分だ。パワーをつけても、そのパワーをレースで使えなければ意味はない。私は、筋肉を大きくするよりも、もっと大事なことがあると思っている。それは、股関節の可動域を広げ、柔らかくスムーズな動きを身につけること。そうすれば、自ずと脚の回転速度は上がる。筋肉を大きくすると関節にも大きな負担が掛かる。関節に大きな負荷が掛かるようなトレーニングは、結果的に脚の回転数を低下させてしまう。それでは、記録は出ない。ハードルなどを使ってスムーズに脚を引き上げる動きを繰り返し行うことが最も効果的だ。』

衝撃的な言葉であった。

「細くて、しなやかに動く筋肉こそが、自分が持っている最大のスピードを出す」

この話を聞いてから、30年近くなる。30年の時を超えて、今まさに必要な言葉だ。

これが、クレイアーロン竜波という選手に大きな可能性を感じる理由である。