中学時代に活躍した選手が、高校生になって伸び悩むことは珍しくありません。

伸び悩みの原因は、大きく分けて2つあります。

〇高校の指導者の質が低い
  →高いレベルの指導ができない
  →全国的な選手を育てる意欲と知識がない
  →自分の功名心のために選手を利用する
  →「中学時代にやり過ぎたから」と言い訳する

〇本人(家族)の意識が低い
  →中学時代と同じことをしていても伸びると思っている
  →高校なんてどこでも同じだと思っている
  →自分の子供の可能性を引き出してくれる高校を選ばない
  →常に自分が一番でいられる高校を選ぶ

ここで重要になるのが「高校選び」です。

強豪校でも、監督の若返りが進んでいます。現在の指導体制をよく調べずに『学校の名前』だけで高校を選んで入ってみたら、実は、強かった時代の監督とは別の監督が指導していたということもあります。

名門校・強豪校といえども指導者が変われば、チームの雰囲気も変わり、結果も変わります。選手のやる気、故障の有無は、すべて『指導者の質』と比例しています。練習が厳しいから故障者が多いのではありません。練習が厳しくても故障者が少ない学校はあります。故障者の多い学校は、選手の体調や心理状況を理解していないことの現れと言えます。


〜高校選びの注意点①〜 指導力がないと判断される高校

・大きな声を出して選手を威嚇するような指導
・頭ごなしに叱りつけて選手の心情を理解しない指導
・すべて監督がコントロールして選手の自主性を奪う指導
・監督の気分次第で練習の雰囲気が左右される指導
・故障したのを「お前の気持ちが弛んでいるからだ」という指導

選手が故障してしまうのも、試合で結果が出せないのも、すべて監督の責任です。選手のせいではありません。選手のことを理解して、心理状態や体調の波を把握している指導者は、故障者や貧血症状の選手を出す確率は極めて低いです。選手のことを理解していれば、必ず結果は出ます。


〜高校選びの注意点②〜 指導者の熱意と経済的負担への理解

 強豪校には強豪ならではの良さがあります。特待生という制度もそうです。能力とやる気のある生徒には、経済的な負担の掛からない待遇をしてくれます、また、競技面では、指導のノウハウが蓄積されているので、3年間コツコツ頑張れば、中学時代に実績のない選手でも必ず伸びてきます。

高校を選ぶ際には、指導者の熱意、指導態度、指導実績、卒業後の進路状況、故障者の有無、選手達の目の輝きなどを確認して下さい。それらを十分に理解した上で高校を決めることをお勧めします。


〜高校選びの注意点③〜 現実的な視点で見る

 『高校選びの重要性』を実際の選手を例にして紹介します。どこが良くて、どこが悪いというのではありません。現実として指導力の差を知ってもらうためのものです。

<中学時代活躍した有力選手の進路>

木村友香(静岡)→筑紫女学園(福岡)→ニバーサルエンターテインメント→資生堂
 ・中学時代は、全国でも圧倒的な強さを誇る
 ・福岡県の強豪校へ進学、高校総体・駅伝で活躍
 ・3年時には、高校総体地区大会落ちなど伸び悩みを経験する
 ・小出監督からスカウトを受けてユニバーサルエンターテインメントに入社
 ・長い目で見て育てるという指導方針のもと心身ともにリフレッシュする
 ・目先の勝ち負けや記録の良し悪しに左右されないメンタリティーを学ぶ
 ・落ち着いた環境の中で徐々に『本来の力」を取り戻していく
 ・ユニバーサルエンターテインメントを経て資生堂へ移籍
 ・現在、東京五輪に最も近いトラック選手となる

鈴木理子(東京)→仙台育英(宮城)→第一生命
 ・中学時代は1500m4分21秒という超中学級の活躍をする
 ・鳴り物入りで宮城県の強豪校へ進学
 ・故障が多く高校総体や国体などトラックの実績は一切残せず
 ・唯一の実績は、2年時の全国高校駅伝での優勝
 ・この世代で最も伸び悩んだ選手となった
 ・今春から第一生命へ入社 

小笠原朱里(石川)→山梨学院(山梨)→デンソー
 ・中学時代は、中2から全中・JOともに優勝
 ・指導者を選んで山梨学院へ進学
 ・高校総体、駅伝で活躍
 ・2年時には、日本選手権5000m3位と大躍進を遂げる
 ・3年時に若干伸び悩んだが高校3年間、全国レベルで活躍
 ・今春からデンソーへ入社
 
桐生祥秀(滋賀)→洛南(京都)→東洋大学→日本生命  
 ・中学時代から全国トップレベルで活躍
 ・名門中の名門、洛南高校へ進学
 ・着実に力をつけて高校3年間で日本のトップ選手へと成長
 ・高校2年生で10秒01の日本歴代2位を達成
 ・東洋大学進学後も日本のトップレベルで活躍
 ・4年時に念願の9秒台(9秒98)の日本新記録を樹立
 ・今シーズンの活躍が期待される
      
日吉克巳(静岡)→地元の韮山→中央大学→2019年4月引退
 ・中学時代は、まさに天才と呼ばれるに相応しい活躍をみせる
 ・3年時の全中陸上で中学記録を更新
 ・高校は地元の高校へ進学
 ・伸び悩みがはじまる
 ・一方で、桐生、小池、川上などの選手が台頭
 ・大学は名門・中央大学へ進学
 ・全国の舞台で活躍する姿を殆ど見かけなくなる
 ・輝きを取り戻すことができず今春引退


〜高校選びの注意点④〜 親の気持ちではなく子供の将来を優先する

 保護者の方々がよく口にするのは「地元では有名な高校」という言葉。「良い先生がいると評判」などと言って親元から離すことが出来ずに地元の高校へ残そうとします。しかし、多くの場合、それが『伸び悩み』の原因になることも認識して頂きたい。

中学時代に全国トップレベルになったのなら、そのレベルを維持する為には、最低でも、日本のトップレベルで活躍しているチームへの進学を考えても良かったと思う。例えば、もし、日吉選手が全国的な名門チームに入学していたら、現在の年齢を見ても、桐生選手や小池選手にようなパフォーマンスをしていた可能性は十分にあったはず。

関東でいうと、千葉の市立船橋や成田なら『指導のノウハウ』があるだろうし、隣接県の神奈川なら相洋や法政二もある。伊豆方面から法政二へ入る生徒は過去にもいたし、通学を希望するなら神奈川県小田原市にある相洋なら十分に通える範囲です。勿論、当時の日吉君には、沢山の高校からのスカウトが来たと思うので、様々なことを考慮した結果、地元の高校を選んだのは理解している。

韮山は、偏差値が高く進学校として有名な学校です。静岡県東部地区では、誰もが憧れる高校ですから、陸上が強いだけの学校を選ぶよりも「文武両道」を目指したいと思ったかもしれない。それはそれで、素晴らしい考えであると思う。しかし、市立船橋や成田の進学実績も素晴らしいし、法政二は当然学力も高い。相洋の活躍は言うまでもないでしょう。中央大学に進学するのなら、韮山でなくても、他の高校でも全く問題ないし『伸び悩み』という壁に当たらなくても済んだ可能性も高い。

全ては、本人次第ですから、韮山で出来なかったことが他校へ進学したからと言って出来たとは一概には言えない。しかし、『指導力の差』という点では、洛南へ進んだ桐生選手とは大きな差があるのは間違いのない事実です。

自分の能力に限界を感じて『早熟だった』という言葉で競技生活を終わらせる彼の心情を思うと残念でしかない。現在のスポーツ科学、トレーニング理論、メンタルサポート、シューズ等の技術開発の進歩から言えば、もっと成長できた可能性はあると思うし、彼に『早熟だったから』と思わせてしまった『指導者の能力』が一番の問題だと考えてもおかしくない。


最後に、今春、高校へ進学した女子長距離選手達について触れておきたい。

 〜3強の進路〜
〇米澤奈々香(静岡)→ 仙台育英(宮城)
〇南 日向 (千葉)→ 順天  (東京)
〇石松愛朱加(兵庫)→ 須磨学園(兵庫)

米澤選手が進学した仙台育英は、言うまでもなく高校駅伝の超名門チーム。今、全国優勝に最も近いチームと言って良い。今年は県外から多数の有力新人選手が加入している。静岡の選手は、過去にも県外の高校へ進学する流れがあるので、米澤選手が静岡を離れて仙台育英へ行くのは珍しいことではない。強いチームに入り『高校でも日本一を目指したい!』という決意を感じる。

南選手が進学した順天は、都内でも有名な進学校である。どんなに陸上の実績があっても、成績が基準に達していなければ入れない高校である。当然、スポーツクラスはない。進学を第一に考えた学校を選んだことから、南選手には、かなり高い学力があることが分かる。文武両道を実践しながら陸上でも頑張るという覚悟が伺える。順天は、仙台育英や須磨学園と比べて全国的な知名度は低いが、実際には、全国トップ10に入る高校と引けを取らない選手層がある。予選を勝ち抜き全国での活躍が期待される。

石松選手が進学した須磨学園も、文武両道を実践している高校である。偏差値は70を超えるほど高く、進学実績は素晴らしいとしか言えない。一昨年までは西脇工業の後塵を浴びていたが、実際には全国トップレベルの実力を維持している。元々の選手層の厚さに加えて、石松選手など全国トップレベルの新人選手が加入したことから「全国優勝」の期待が掛かる。留学生がいない高校として優勝争いに加わる最有力校である。

上記3人の「高校選び」は、春のレースを見る限り間違っていなかったと言える。3人とも先輩達に可愛がられて、伸び伸びと高校生活を送っているようだ。今後の活躍に期待して成長を見守っていきたい。